第174話 剣士祭⑩

 ローカス道場に一行が戻るとクスイーが気落ちしていた。ルークの1勝で勝ち上がったのはいいがクスイーは自分が唯一の黒星を付けてしまったことに落ち込んでいたのだ。


「すいません、僕の所為で全勝が途切れてしまって」


「いいよ、誰だって弱みはあるし、クスイーが女の人に打ち込めないのは、寧ろいいことなのかも知れない。ロックや僕は相手が剣士ならあまり気にせず打ち込んでしまうからね」


「バカ言うな、俺は女性には優しいんだぞ」


「でも負けてはあげないでしょ?」


「それはそうだが。相手が参ったと言ってくれるまで相手の剣を受け続けるさ」


 実際のところは途中で嫌になって出来るだけ怪我などしないように打ち込んで終わらせる、というのが関の山だろう。多分ルークでもそうする。マコトとアクシズなら問題なく打ち伏せてしまうだろうが。


「それで、明日は何処とやるんだった?」


「明日はガーデニア騎士団旗下のゲイル道場だよ。一緒に行って三騎竜に会ったあの道場さ」


「おお、では三騎竜は出て来るんだろ?」


「いや、クリフ=アキューズはあのとき稽古を付けに来ていただけだからゲイル道場に所属している訳ではないよ。だから明日は出てこないと思う。そもそも参加しているのかな?ジェイ、何か知らない?」


(なんだ、それを見に行かせていたのだろう。忘れて追ったか?)


「いや、まあ、それも見に行ってもらっていた、ということかな」


(まあよいわ。三騎竜のうち二人は今回も参加しておらんようだった。ただ、そのクリフというのはルトア道場というところから参加するみたいだったぞ)


「ルトア道場って、あの娘が居る道場じゃなかったか?」


 ロックがしょげているクスイーに向かって言う。アイリス=シュタインの父は確かルトア道場の師範だったはずだ。


「そうです、ルトア道場はアイリスの道場です。確かにクリフさんはルトア道場に所属していたはずです。ただ最近は滅多に剣士祭には出場したりしなかったはずなのですが」


 マゼランの三騎竜は強すぎて剣士祭に出場すると相手の負けが確定してしまうので出場を見合わせていたのだ。それが何年か振りに一角とは言え出場するとあって、話題になっているらしい。


「そりゃ俺と試合いたいから出てきたんだろう」


 実のところ、そうとしか思えなかった。ゲイル道場でロックと剣を交えて、ちゃんとした試合をしたいと思ったのだろう。ただ、負けるとも思っていない筈だ。ロックの成長を促すつもりで、負けたからこそ上達することもある、というのを教えたいのだ。直接聞いたわけではないが、その想像はそれほど間違ってはいないとルークは思った。


「でも、最低でも本選に出ないとクリフとは戦えないってことだな」


「ロック、駄目だよ、ちゃんと優勝を狙わないと」


「そうか。でも俺は強い奴とやりたいだけなんだ」


「一番強い奴が決勝に居るんじゃないか」


「なるほどそうか。では決勝に行くとしよう」


「少なくともルトア道場と当たるまでは負けられない、でいいんだな」


 珍しくアクシズが話に入ってくる。


「僕はランドルフ道場と当たるまでは負けられません」


 クスイーも続く。マコトとミロはもう寝てしまっている。


 明日、二次予選の二回戦ゲイル道場に勝てば後一つで本欄出場が決まる。

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