第173話 剣士祭⑨
「ルーク、いいなぁ。代わってくれるか?」
初めて順番が副将まで回って来てルークの出番になったのをロックは羨ましそうに見ている。
「駄目だよ、ちゃんと順番は登録してあるんだから」
「じゃあルークが負けてくれれば」
「それも駄目。僕はクスイーの1敗だけで最後まで行くつもりだからね」
「そんな調子で最後まで行けるのか?」
「強い道場と言っても三人くらいが限度だと思うんだよ。ロックと僕とアクシズが居ればなんとかなるんじゃないかな。マコトとクスイーには頑張ってもらわないといけないけど」
おとなしそうな顔をしているがルークには自信が漲っている。本当に最後まで無敗で行くつもりだったのかもしれない。クスイーが女剣士に打ち込めなかったのは想定外だ。
「副将戦ローカス道場ルーク=ロジック対ドーバ―道場チューレ=サイレン」
呼ばれてルークが道場の中央に出る。相手のチューレはルークよりも一回りはデカい。細身のトリスティアは別としてバウンズ=レア公王領所属の道場は大柄な剣士が多い。
「では副将戦始め!」
掛け声を聞いた瞬間にルークが相手に切り掛かる。ルークの剣は変幻自在だ。右から来た剣を受けた次の瞬間には、また右から剣が来る。一瞬ルークが背中を向けたと思った途端上段から剣が振り下ろされる。
変幻自在な剣に対応が追い付かなくなるのに時間はあまりかからなかった。
相手にしたら何が起こったのかも判らないまま、気が付けば自分が尻餅を付いていて、その喉元にルークの剣が突き付けられていた。
「そこまで、ルーク=ロジックの勝ち」
チューレは相当長い時間打ち合っていたと感じていたが実際には1分に満たない時間しか経っていなかった。
「ローカス道場はもう閉めてしまったと聞いていたのだが、強いね。私の出番が無く負けてしまったよ」
ドーバ―道場の大将格であるクラフト=サイデンスがルークに話しかけた。
「いえいえ、僕たちは最近ローカス道場に入ったばかりで、それまではクスイー=ローカス一人しかいなかったんですよ」
「そうなのか。それならうちに来てもらえばよかった。それにしても君のロジックと言う名前はまさかとは思うがアゼリア公の縁者の方なのかな?」
「ええ、一応狼公の養子と言うことになっています。ただ、そう名乗ってもいい、というだけですが」
「実子ではないというのだな。確かにアゼリア公がご結婚されたとは聞いていなかったからな。それと、そちらの大将は?」
「彼はロック=レパード。御前試合の優勝者です。僕より強いですよ」
「おお、それは。確か聖都騎士団副団長のご子息だと聞いている。そんな方たちが入ってローカス道場は今後も安泰だな」
「いいえ、多分剣士祭が終われば僕とロックはまた旅に出ると思います」
それは本当の事だ。二人はあくまで旅の途中なのだ。
「そうか。それならばもしバウンズ=レアに来たらサイデンス家を訪ねて欲しい。私が居ればいいし、居なくとも家人には十分に言い聞かせておくから」
「ありがとうございます。バウンズ=レアに行ったときは是非立ち寄らせていただきます」
「なんだ、バウンズ=レアに行くのか?」
ロックがルークたちの会話に入って来た。
「いや、いつか行ったときは、って話だよ」
「なんだ行かないか。そう言えばシュタールは魔道士の聖地なんだろ?俺にはあまの関係は無いな」
ロックはもう興味がない様子で離れて行ってしまう。
「すいません、剣のことしか頭にない男でして」
「確かにそのようだ。では、明日の試合も頑張って、出来れば優勝してくれるとうちの道場も箔が付く、頼んだ」
クラフトは笑顔でそう言いながら去って行ったが、優勝できると本気で思っていそうではなかった。
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