第172話 剣士祭⑧

「それでは次鋒戦、始め!」


 審判の声にクスイーは反応できない。トリスティアはクスイーが構えていないのも関係なく打ち込んできた。辛うじてそれを躱すが、まだクスイーの覚悟が追い付いていない。ちゃんと相手の試合を見ておけばよかったと後悔してももう遅い。


「ちょっ、ちょっと待って」


 クスイーの言葉で相手が素直に待ってくれる訳もない。クスイーは相手の剣をなんとか数回受けたが足元も覚束ない。


「クスイー、しっかりしろ」


 アクシズが激を飛ばすが、どうしてもクスイーはトリスティアに打ち込めない。


「躱すだけじゃ勝てないぞ」


 クスイーもそんなことは言われなくても判っている。それでもやはり打ち込めないものは打ち込めないのだ。


 徐々に追い詰められてくるクスイー。打ち込み続ける相手が疲れるのを待つしかない。


 ところがトリスティアは小柄ではあるが持久力には自信があるようだ。バウンズ=レア自治領は砂漠が多い地方で、そこで生まれ育ったトリスティアは強靭な足腰を持ち合わせて居た。


 全く疲れを見せない相手にクスイーは手の打ちようがない。逆にクスイーの方が疲れが出始める。


 そしてついに決着が付いた。トリスティアの剣をクスイーが受け損なったのだ。


「そこまで。トリスティアの勝ち」


 結局ローカス道場の初黒星をクスイーが喰らってしまった。ロックたちは特に全勝を意識していた訳ではなかったが、初めての敗戦に少しショックを受けていた。


「クスイー、今後の課題だな」


 ロックはそういうが自分が女剣士と試合うときにはどうするんだろう、とルークは思った。


「あなた、何も出来ずに負けたことを恥に思いなさい」


 トリスティアは試合後クスイーに詰め寄った。自分が女だからと言う理由で勝ちを貰ったようで納得がいかないのだ。


「ごめんなさい。でも女の人に剣は振れない。もう二度とやのたくないよ」


 トリスティアは不満顔のまま引き下がって行った。普通に戦えばクスイーの勝ちは間違いない。それでも負けは負けだ。


「中堅ローカス道場アクシズ=バレンタイン対ドーバ―道場ホーン=ディーン」


 アクシズが道場の中心に出る。その姿には余裕しかない。


「それでは中堅戦、始め!」


 掛け声と同時にアクシズが動く。ホーンは受け手一方だ。アクシズの剣をホーンが受けきれなくなって直ぐに決着が付いた。


「そこまで、アクシズ=バレンタインの勝ち」


 相手との力量に相当差がある。アクシズがクスイーと交代しておけば無敗を続けられたかも知れないが、アクシズには負けて強くなることが必要だと思ったので代わらなかった。ただ、クスイーは今後も女剣士とは戦えないことを確信させられただけで終わった。


 これでローカス道場の2勝1敗。剣士祭で初めて副将戦に入りルーク=ロジックに出番が回って来た。

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