第171話 剣士祭⑦

 翌日、朝からローカス道場とドーバ―道場の二次予選第三試合が行われた。


 ローカス道場の先鋒はマコト=シンドウ。スレイン道場に出稽古に行ってからずっとこの順番だった。マコトももう何も言わない。初見で相手の力量を見る、という役割をちゃんと熟している。


 相手のドーバ―道場はサーメル=ズール。小柄なマコトより約20cmは高く体重では約30kgは重い。


 対格差はそのまま力の差でもある。試合が始まるとマコトはとりあえずサーメルの剣を避けて受けないようにしている。受けてしまうと手が痺れてしまう可能性があるからだ。


「怖いな、こっちの細剣が折れてしまう」


 軽口をたたきながらマコトはそれでも一度も相手の剣を受けない。サーメルは体格を武器に力で押し切るタイプなのだがマコトに悉く避けられてしまうのでだんだん焦って来た。


「逃げてばかりいないで、打ち込んできたらどうだ」


 サーメルは挑発するがマコトは乗らない。会場を広く使って存分に逃げる。


 初めてサーメルの剣をマコトが受けた時、ルークが叫んだ。


「今魔道を使ったぞ、マコト、気を付けろ」


 サーメルは敏捷性を上げる魔道を自らに掛けて剣速を突然上げたのだ。


「反則じゃないのか?」


「いや、いい。このまま続けてくれ」


 ルークの声にマコトが応える。この程度の相手に魔道を使われたとはいえ負ける訳には行かないのだ。


「では遠慮なく」


 サーメルはそういうと堂々と魔道を掛けた。マコトが受けざるを得ない剣速だ。但し、毎日クスイーの剣を受け付けているマコトから見たら十分対応できる剣速だった。


「何だお前、なぜ対応できる」


 サーメルの驚きはその時道場に居たローカス道場以外の道場全員の共通したものだった。


 どちらかと言えば小柄なマコトが大柄なサーメルを完全に翻弄している。


「あれはどの道場のものなんだ?」


 会場となったダモン道場で見ていた者たちの間で密やかにささやかれ始める。第一次予選ではマコトの本領を発揮できる相手ではなかった。簡単に決着が付いていて、ほとんどの者がちゃんと試合をみれていなかったのだ。


「もしかして道場破りにうちに来たやつじゃないか?」


 どうもマコトが道場破りをやっていたときに訪れた道場があったらしい。ただ、その道場は受けなかったのでマコトの腕は見ていない。


 力強いサーメルの剣を悉く受け流し、逆にマコトの剣がのど元に突き刺さる一歩手前で止まる。


「そこまで。マコト=シンドウの勝ち」


 終わってみれば危なげもなくマコトが勝った。ただ相手は剣に魔道を掛けてくる。それに対処する必要がある。次はクスイー=ローカスの出番だ。


「次鋒ローカス道場クスイー=ローカス対ドーバ―道場トリスティア=アドスレン」


 クスイーの相手は女性だった。初めての女性との試合にクスイーは戸惑っている。クスイーが剣士祭に出たい思ったのはアイリス=シュタインを理不尽に襲ったランドルフ道場に腹を立てたからだ。女剣士、という存在はローカス道場に元々大勢塾生が居た中にも女性は居なかった。


 トリスティアは剣士祭にもほとんど見られない女剣士の一人だった。


「ちょっと待って、アクシズさん」


 クスイーはアクシズに助けを求めるが、当然アクシズは無視した。仕方なくクスイーはトリスティアと対峙する。が、覚悟は決まっていなかった。

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