第158話 出稽古④
「ではこちらは次鋒にクスイー=ローカスを出します」
ローカス道場側はルークが仕切っている。先鋒はクスイーには荷が重いと思っていた。マコトのお陰で相手の力量の一端が見えた。クスイーが本来の力を出せれば塾頭にでも勝てるだろう。問題は普段に力が発揮できるかどうかに掛かっている。
「うちは塾頭トーク=サクノがお相手しましょう。うちのエースです。先ほどの様には行きませんよ」
ワットは自信満々だった。マコトの剣を見てまだその自信なのであれば、塾頭は第二席とは違う、ということか。
「よろしくお願いします」
クスイーが審判と相手に一例をする。相手のトークは頭も下げない。プライドだけは高いようだ。
「では、次鋒戦、始め!」
二人が対峙する。どちらもしばらくは動かなかった。クスイーは道場では相手に合わせることが多かったので、切り掛かって来てくれないと対処できない。自分から掛かっていくことがあまりなかったのだ。その辺りがクスイーの弱点でもある。
逆にトークはそのプライドから自分からは仕掛けて行かない。相手を隠したとみているので相手の剣を躱すなり往なすなりしてから圧倒したいのだ。
「クスイー、相手はお前から来てくれるのを待っているようだ、遠慮なく倒して来い」
ロックが嗾ける。ロックとしてはクスイーの剣の速さで相手の度肝を抜きたいのだ。
「判りました。僕の方が格下ですから僕から行かせていただきます」
そういうとクスイーはトークに切り掛かった。それを流石に塾頭を張ることはあるのか紙一重でトークが避ける。但し、紙一重で避けようとしたわけではない。余りの剣の速さに辛うじて避けられただけだった。
驚愕の表情でトークが少し引いて間を取った。
「なっ、なんだその速さは」
それはロックたちも最初にクスイーの剣を見た時に感じたものだった。但し、あの時からクスイーの剣は更に速さと鋭さを増している。
そこからはクスイーの剣が止らない。異常な速さで連続して様々な角度から剣をは放つ。
普通の剣士なら上段から振り下ろすと次はそこから跳ね上げないといけないがクスイーの剣は一度戻ってまた上段から振り下ろされたりする。相手は堪ったものではない。想像していない角度から剣が来るのだ。
トークか対応できなくなってしまうのに時間はかからなかった。下段から突き上げられた剣に対応するのに精一杯だったトークに対してクスイーの剣がトークの額の寸前で止まった時、ワットから「それまで」という声が掛かった。
「おい、ローカス道場の息子だったか、なんなんだお前は」
ワットが信じられないという表情で呟く。
「確か少し前に没落したと聞いていたが」
「先日捕まったヴォルデス道場の連中に師範だった父が衝撃されて、その後塾生が一人も居なくなってしまいました」
「ヴォルデス道場が闇討ちをしていたという件か、それは聞いている。あいつらに襲われたのか、それは気の毒にな」
「いえ、もう終わった事ですから。今はこの人たちと有意義にやらせていただいています」
「それにしても君の剣は異常だ。速さだけで言えばマゼラン一かも知れんな」
それはお世辞ではなかった。ワットとしては実際には一番だと思っている訳ではなかったが、その位の衝撃があったのだ。
「ありがとうございます。今後も精進します」
「さて、次は中堅戦ですが、このまま続けてもよろしいですか?」
スレイン道場としては二連敗で最早後が無い。次の中堅戦で負ければ五戦やるにしても負け越しが決定してしまう。正直なところソニー=アレスからは叩き潰す気持ちで真剣に相手をしてください、と言われていたがローカス道場の事前の噂も聞いていたので軽く見ていたのだ。
「少しだけ時間をくれないか」
ワットは作戦を再考することにした。
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