第157話 出稽古③

 互いに一礼をして、木刀を正眼に構えたサムス=マキノがマコトと向き合う。自然体だ。マコト相手に隙を見せない。スレイン道場の力量がある程度図れる。今のクスイーには丁度いい強さだとマコトは思った。


「来ないのかい。ではこっちから行かせてもらうとしようか」


 マコトが袈裟懸けに切り掛かる。サムスが受ける。直ぐさま反撃に出て来る。が、深追いはしない。


「なかなかやるね。じゃあ俺もちゃんと練習させてもらうよ」


 マコトが攻め込む。相手に休む間を与えない連続の切り込みだ。マコトはスタミナには自信があった。この程度では息も切れない。


「君はいちいち煩いんだよ」


 初めてサムスが喋った。


「なんだ話せるんじゃないか。楽しくやろうぜ、剣士祭じゃなくて練習なんだから。まあ、負ける気はないけどね」


 マコトは道場破りを繰り返しているうちに相手を真剣にさせる、というか怒らせて本気にされることに長けていた。


「それが煩いって言っているんだ」


 怒りで強くなる剣士もいるが大抵の場合は剣先が鈍る。怒りが先に立ってしまうからだ。前へ極端に出ようとしてしまい防御が疎かになる。そこに付け込むのだ。それでマコトは殆どの道場で勝ってきていた。


 マコトの道場破りの唯一の負けがロック=レパードだった。ロックは別格としてアクシズにも稽古ではやられっぱなしだった。ルークとは直接試合ったことが無かったが、ロックとの試合を見て同じくらいの化け物だと思った。


 ローカス道場に来てから自己評価が下がりっぱなしのマコトだったが、ここではいい所を見せておかないとミロにも馬鹿にされそうだ。


 サムスが本気で打ち込んでくるがマコトは難なく躱したり受けたりしている。こちらを倒そうとしてくる相手との試合はとてもいい練習になる。本気になってくれれば、くれるほどいい練習になるのだ。


 サムスは少し短気ではあったが強さは本物だった。道場破りをしていた時のマコトであれば負けていたかもしれない。


 これで第二席なのだから、この道場はそこそこ優秀な道場とみていい。マコトが道場破りをしてきた中で、これほど使える相手はいなかった。まあ、大きな道場や有名な道場には、そもそも中にさえ入れてもらえなかったのだが。


「あんた、なかなか強いね。有難い、いい練習になる」


 褒めているようで、実は怒らせている。


「煩いと、ええい、もういい。黙られてやる」


 サムスはマコトよりは三、四歳上くらいでまだ若い。まんまとマコトの作戦に乗ってしまっている。そして、サムスが渾身の力を込めて振り下ろした木刀をマコトが躱した時点で勝負が決まった。振り下ろされた木刀をマコトが更に上から打ち下ろしてサムスは思わず木刀を離してしまったのだ。そして木刀は遠くへ転がって行ってしまった。


「勝負あり、そこまで。マコト=シンドウの勝ち」


 審判役のワット=スレインが苦虫を噛み潰したかのような顔で覇気もなく宣言した。


「二席とは言え、うちのサムス=マキノの攻撃をよく凌がれた。あっぱれだ。もしかして彼がローカス道場で一番の使い手なのかな」


 悔し紛れとはいえ、少々無理がある。相手の先鋒にこちらの大将をぶつけて何とか一勝を得る作戦だとでも言うのだろうか。


「そうかも知れませんね。次もお手柔らかにお願いします。では次鋒戦といきましょうか」


 ルークが少しの棘を込めて応えた。

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