第156話 出稽古②

 ソニーの手配で実験形式の出稽古を受けて貰えたスレイン道場はローカス道場からはそれほど遠くはなかった。


「頑張ってきてよ」


 ミロの声援を背に受けて意気揚々として五人はスレイン道場に向かった。ミロを一人にするのは心配だったがジェイを留守番に付けておいた。今日はジェイの出番はなさそうだったからだ。


「頼もう」


 時代めいた掛け声でロックがスレイン道場の門を開けると、すぐに道場の関係者が出てきた。


「こちらへどうぞ」


 ちゃんと話は通っているようだった。早速道場に通された。


「ようこそ来られました。私がこのスレイン道場の道場主ワット=スレインです。ソニー様から話はお聞きしております。ソニー様からは手加減なしで、と注文をいただいておれますが、それでよろしいでしょうか?」


「ありがとうございます。望むところです。叩きのめすくらいの気持ちでお願いします。僕はルーク=ロジック、彼がロック=レパード。クスイー=ローカスとアクシズ=バレンタイン、最後にマコト=シンドウの五人で来ました。ソニーの言う通り、手加減なしでお願いします」


 生意気なくらいがちょうどいい、とルークは思っていた。それで相手が本気になってもらえれば、それに越したことはない。


「なるほど、よほどご自信がおありのようですな。よろしい、ではお望みの通りうちの精鋭を本気でお相手させることにしましょう」


 それを聞いてロックの笑顔が止らない。


「では、さっそく」


 ロックが直ぐにでも始めようとするが、流石にそうもいかない。


「ははは、せっかちな方ですね。こちらも準備がありますので、今しばらくお待ちください」


 そういうとワット=スレインは奥へと引っ込んでいった。準備というか、打合せをしているのだろう。若造にほえ面をかかせてやれ、とでも言っているのかも知れない。


「ロック、手を抜いてとは言わないけど、やり過ぎは駄目だよ。折角ソニーが用意してくれた練習相手なんだから」


「でも、弱ければ練習にならないじゃないか。そもそもスレイン道場って言うのは強いのか?」


 ロックは塾生がたくさんいる前で気にせずに話すのでルークは気が気ではなかった。激高した塾生がいきなり切り掛かって来るかもしれない。そうなればそうなったで、ロックは嬉しいのだろうが、ソニーの手前、そんな結果では申し訳ない。正々堂々とした試合で打ち負かすのは問題ないだろうが。


 少し時間を掛けてワットが出てきた。ちょうど五人連れてきている。


「うちの師範シル=スレイン。師範代トルク=スレイン。もう一人の師範代メルク=トーチ。塾頭のトーク=サクノと第二席のサムス=マキノの五人だ。来たる剣士祭にも、この五人で出場することになるだろう、うちの精鋭たちがお相手しよう」


 ワットは自信満々だった。実際のところ、昨年の剣士祭では道場設立以来初めて予選を突破して16位以内に入ったのだ。8位以内には入れなかったが道場史上最強の五人に間違いなかった。


「では始めようとしようか。五人が一人づつ、そちらの五人と試合う、ということでいいかな」


 一対一を五人で一回づつ五戦行う、ということだ。


「俺が全員と一人づつ相手をしてもいいぜ」


 ロックが嘯くが、多分冗談ではなく本気だ。


「ロック、それではみんなの練習にならないよ」


「そうか、それは残念」


「先鋒、次鋒、中堅、副将、大将という感じで一人づつ、でいいですよね」


「よかろう、それでは先鋒から行こう。こちらの先鋒は第二席サムス=マキノだ」


「判りました、ではこちらはマコト=シンドウを出しましょう」


 マコトは、俺?、という顔をした。クスイーが最初だと思っていたからだ。実戦の経験からするとクスイーが一番浅い。自分は勝手に二番手だと思っていた。実力からしても二番手のはずだと考えていたのだ。


「俺からか、まあいいけど」


「マコト、相手の力量を図るのはクスイーでは荷が重いと思うんだ、先鋒頼むよ」


 そういうことか、とマコトは納得した。スレイン道場の強さがやってみないと判らないのだ。マコトがその強さを図る役目、という訳だ。


「では、サムス=マキノ対マコト=シンドウの先鋒戦、始め!」


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