第153話 ヴォルデス道場⑨

「終焉の地か、話にはきいたことがあるな」


 アクシズが言う。闇ギルドなので一般的には知られていない筈なのだが、アクシズにも色々と裏社会との繋がりがあるようだ。


「そんな闇ギルドなんてものがあるんだな。殺しを専門に扱っているのか」


 マコトやクスイーの直接的な仇はヴォルデス道場だったのだが、その黒幕というか、もう一つの実行部隊である終焉の地なのだ。終焉の地を利用して色々と画策している黒幕が居るのは確かだろうが、そこまで突き止めるの中々難しそうだった。


「話したことなかったか、前に終焉の地とは絡んだことがあるんだ。そこの幹部、ルシア=ミストという奴は、そこそこ強かった。まあ、主に魔道の方が、だがな」


「確かにルシアが絡んできているとしたら、ちょっと厄介なことになるかもね。でも剣士を襲うのにはあまり適してはいないとも思うから、剣士を中心とした別動隊と見た方がいいだろうね」


「そいつらは強いんだろうな」


「まあ、そこそこ名の通った剣士を、大勢とはいえ襲ってきているんだから、ある程度は使えるとは思うけど、ヴォルデス道場の師範たちは、それほどでも無かっただろ?」


 ロックは少し残念そうだった。ルーリ=メッセスの命が掛かっているのだから、あまりにも強い剣士が来てしまうのも問題なのだろうが、どうせ相手をするのなら強いに越したことはないとも思うのだ。


 ソニーからの情報を整理して話した後、ロックとルークはアクシズも連れて再びガーデニア騎士団の宿舎へと向かう。今夜は交代で見張るのだ。二時間おきに二人が起きて一人が仮眠する。


 ロックとアクシズは魔道の方は全く使い物にならなかったので、ルークが仮眠を取っているときに魔道士が襲ってきたら要注意だった。


「ちゃんと来てくれたんですね、よかった」


 ルーリは気が気ではなかった。勤務中もいつ襲われるか、ビクビクしながら務めていた。周りには騎士団員が大勢いたので襲われはしないと思っていても、やはり気になるのだ。


「来るに決まっているだろ、そんな無責任なことはしないさ」


「そもそも私の暗殺を依頼すること自体が」


「まあ、それは言うなって。ルーリも終焉の地が捕まればお手柄だろ?」


「えっ、終焉の地って、あの闇ギルドの?」


「ああ、ヴォルデス道場が壊滅してしまったので、残る暗殺の実働部隊は終焉の地らしい。言ってなかったか?」


「聞いてません!知ってたら力付くでも止めさせます」


「力付くでも?」


「いや、それは無理だとしても絶対に止めさせていました。命がいくつあっても足りません」


 それで無くとも怯えていたルーリが、さらに怯えだす。ガーデニア騎士団も終焉の地にはいままで何度も煮え湯を飲まされているのだ。


「まあ、あまり気にしないで今日も寝ててくれればいいよ」


 ルークにそう言われると少しは安心するルーリだった。ルーリは寝床について目を閉じると、いままで怯え切っていたのが嘘のように眠りに付いた。やはり神経は相当図太いようだ。


「じゃあ、とりあえず先に僕は休ませてもらうね」


 話し合って最初にルークが仮眠することになった。魔道士が襲ってくるとしたら、もっと夜が更けてから、という見方だ。


 そして、その見方は少し間違っていた。終焉の地の暗殺班には魔道士が居なかったのだ。


 ルークが仮眠を取って1時間ほどが経過したとき。人の気配にロックが気が付く。よほど注意していないと判らない程の足音だった。アクシズも追って気が付く。相手は三人だ。


 足音からすると相当な使い手らしい。ロックはワクワクが止らない。アクシズにはそのあたりの感覚は理解できなかった。


 ルーリは目を覚まさない。足音が扉の前に到達したときにはルークは目を覚ましていた。


「来たね」


 小声でルークが言う。


「三人だ、ちょうどいいな」


 ロックとしては一人が一人の相手をするのが物足りないのだが。


 カチャ。ドアを開ける音。部屋に中は暗い。ロックたちは完璧に気配を絶っている。侵入者三人は気が付いていない。


 その時、ルークが魔道で灯を灯を点けた。

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