第152話 ヴォルデス道場⑧

「お呼び立てして申し訳ありませんね」


「いや、こちらが頼みごとをしているんだから当然だよ。」


 ソニーを訪ねたのはロックとルークの二人だ。後は道場に待機してもらっている。


「それで何か判ったのか?」


「そうですね。一応少しは。終焉の地、という組織を覚えていますか?」


「もちろん覚えているよ、ロスの後も結構あちこちで絡んできたからね」


「なるほどそうでしたか。あの、ルシア=ミストという幹部の現在の状況は判らないのですが、どうも組織の中の別動隊が暗躍している可能性があります」


 ここでも終焉の地か、というのが正直な感想だった。あらゆるところの闇に潜んで何がしたいのだろうか。


「ルシアはどちらかと言うと魔道に特化した暗殺部隊の長だったと思うのですが、今マゼランで暗躍しているのは剣士が中心となった終焉の地ということです」


 さすがはマゼランだ、そんなところにも剣士が幅を利かせているのか。


「終焉の地を利用している誰かが居る、ということなのでしょうが、ヴォルデス道場とは別に終焉の地も主だった道場の師範や師範代を狙っている、という話です」


「そうすると、終焉の地への依頼主は別の道場、ということになるのかな」


 好敵手と成り得る道場を潰して自分たちの道場の名を上げようということか。流石に聖都騎士団傘下や各州騎士団の正式な傘下の道場は襲えないのだろうが、私塾は標的にされる可能性が高い。

 

 ただ大小数百はあろう私塾の全てを攻撃の対象とする訳にも行かない筈だった。


 人気私塾を襲って自らの道場が有利になる、そして塾生も増えて金回りも良くなる。その金でまた他の人気道場を襲わせる。ヴォルデス道場は、それを直接やっていたのだが、そのヴォルデス道場にも依頼し、また終焉の地も使って目的を遂げる、それはそこそこ有名な私塾が関わっている可能性が高い。


「ヴォルデス道場は壊滅させられたけど終焉の地は組織全容が判らないから難しいね」


「終焉の地は背後にも色々ときな臭い噂はあるし、ガーデニア騎士団も簡単に手を出せないかも知れないよ」


「それは問題だろう。グロウス先輩が許さないと思うが」


「グロウスさんならそう言うかも知れないね。場合によってはガーデニア騎士団と終焉の地の全面戦争に発展しかねない」


「それはそれで拙いんじゃないかな。アストラッド騎士団も表立って終焉の地と諍いを起こす気は無いと判断しそうだし。多分アストラッドにも終焉の地は入り込んでいるのに間違いないからね。今そのあたりのことをアークに調べてもらっているところなんだ」


 ソニーはソニーで色々と心配して手を回しているようだ。アークと別行動を取っている理由の一つには間違いないだろう。但し、それが全てとは到底思えないが。


「公国としても州騎士団としても闇ギルドの終焉の地を壊滅に追い込む確固たる信念で協力してくれるといいんだけど、どうも裏には色々とあるようなので一致団結とはならないようなんだよ」


 ソニーは公国や各州騎士団の未来を憂いているように見える。ソニーの行動の全てが終焉の地壊滅のため、ということはあり得るのだろうか。ルークはソニーがそんな単純な人間だとは思えなかった。但し、情報はありがたい。


「相手は終焉の地の剣士部隊、それに終焉の地を使っている道場が特定はできないがある、ということだね。もしかしたら依頼者の道場も複数なのかも知れない」


「もう少し特定できる情報があればよかったんだけど、今のところはこんな感じなんだ、悪いね」


「いや、十分だよ。闇雲に探し回るよりは終焉の地っていう顔が見える相手を探す方が闇に潜んでいるとしても判り易くていいし」


「また何か判ったら伝えるよ。ロックとルークなら大丈夫だとは思うけど、終焉の地も甘く見れる相手ではないから」


「ミストはそこそこの使い手だったし、気を抜かないようにしないとも、ソニー、ありがとう」


 ロックとルークは礼を言ってソニーの元を辞した。夕方にはルーリの居る宿舎に行く。それまで少しは時間があったので一旦ローカス道場に戻って現況を報告するのだった。 

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