第151話 ヴォルデス道場⑦
「そんな、私を殺して欲しい、なんて依頼をしたって言うのですか?」
「うん、ごめん、でも黒幕が捕まればルーリさんもいい仕事ができたと思うでしょ?」
ルーリ=メッセスは青ざめて震えながら訴える。
「私を守っていただけるんですよね。お願いしますよ。確かに何でも言ってほしいとはいいましたが、これはちょっと酷すぎます」
「俺とルークがずっと見張るから大丈夫だよ。クスイーにはちょっと荷が重いかも知れないから道場へ帰すけど二人がいれば問題ないさ」
ロックは自信満々だった。実行部隊だったヴォルデス道場の師範や師範代を問題なく倒せたのだ、他の部隊が来てもそう変わるものではないと思っていた。
「急いで欲しい、とも伝えてあるから今夜あたり来るかも知れないね」
ルーリはガーデニア騎士団宿舎に居る、とまで伝えてあったので、いつ来るのかは時間の問題だった。できれば今夜来て欲しい。ここに長く寝泊まりする訳にも行かない。但し、実際に殺しに来るまでは続くのだが。
「でももしかしたら失敗したかもな、流石に騎士団宿舎には殺しに来れないこともありそうだ」
「それでは私は殺されないということで大丈夫ですか?」
「いや、ちゃんとガーデニア騎士団のルーリだと言ったのに受けてくれたから、騎士団宿舎にでも侵入できるということじゃないかな」
「えええ、それじゃあ、やっぱり私を殺しに来るってことですか」
「むしろ来てくれないと困るよ、折角の手掛りなんだから。剣士でも魔道士でも対処できると思うから、任せておいて」
実際に襲われないと捕まえられないので、ロックとルークは別の部屋で待機してルーリを一人で眠らせる。ジェイに見張りに頼んで何かあったらすぐ知らせるように言っておいた。
(本当にお前たちは使い魔の使い方が酷いの。寝る暇もない)
「ジェイって寝るんだっけ?」
(使い魔とはいえ実体を持っておるのだ、睡眠は不可欠だぞ)
普段は姿を消しているが、確かに実体はある。話したり飛んだり壁を抜けたりするのは、魔道の応用だった。
「それは知らなかったな、じゃあ僕たちが見張っている間は休んでいていいよ」
(我は勝手に休んでおるから気にするな。呼べば起きるだけだ)
「そうなんだ、じゃあ必要な時にはお構いなく呼ぶね」
(やはりお主は使い魔使いが荒いわ)
ジェイはそういうと気配を消したが特に怒っている訳でもなさそうだった。色々なことに巻き込まれて波乱万丈ではあるが、あの森にずっと居ただけでは決して出来なかったことを今経験出来ていることに満足しているのだ。
「とりあえず安心して寝ていいよ、ルーリさん」
「眠れる訳無いじゃないですか、命を狙われているんですよ?」
「だから俺たちが守るって言っているだろう。とりあえず今晩は二人とも起きているから、安心して寝ていいぞ」
そう言われてもルーリは結局一睡もできる筈が無かった。喧嘩や暴動、犯罪者を捕まえたりするのは慣れているのだが、自分を殺しに来る相手とは会ったことがなかった。何かいつも出会う犯罪者や殺人者とは違う感じがするのだ。他人の命を守るのは使命だが自分の命を守るのはただの防衛だ。
ルーリはとりあえず眠れなくても寝床に入って横になることで身体を休めることにした。そのうちに寝息を立てだす。ああだこうだと言いながら普通に眠ってしまった。案外肝が据わっているのかも知れない。
そして、結局その夜は暗殺者は現れなかった。翌朝、昼間は騎士団員と行動を共にしているから、さすがに襲っては来ないだろうとロックとルークはジェイを残してローカス道場に一旦戻ることにした。夜にはまた宿舎に戻ってくるのだ。
道場に戻るとソニーから時間が空いたら宿まで来て欲しいと伝言が届いていた。何か情報が掴めたのかも知れない。ロックたちは少し仮眠を取ってからソニーの宿に向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます