第150話 ヴォルデス道場⑥

「ソニーからの連絡があるまで、どうしようか」


 ロックはさっさと歩き出している。


「例の地下で賭け試合をやっている店に行くぞ」


 ロックは店の場所を知らない筈なのだが、何故だか自信をもって歩いている。それが確かに方向として合っているのだ。


「ロック、店の場所を知ってるの?」


「いや、知らない。間違っているのか?」


「合ってるけど」


「ならいいじゃないか、行こう」


 ロックの特殊能力とでも言うのだろうか。目的地を知らなくてもちゃんと道が判っているようだ。ルークも今までロックがそんなことが出来るとは知らなかった。


「ロックさんに付いて行って大丈夫ですか?」


 クスイーも不安になったのだろう、ルークに確認してきた。


「大丈夫、道は合ってる」


「それならいいんですが。ロックさんは道に詳しいんですね」


 クスイーは少し勘違いしている。ロックは道を知っている訳ではない。


 店に着くとちょうどいい時間だった。賭け試合が始まったばかりだ。


「さて、どうするかな」


「やっぱり、何も考えてなかったね」


 ロックは来たのはいいが、ここでどうしようとかの考えはない。ルーク任せだ。


「とりあえず、顔役のような人を探して殺しの依頼でもしたらいいんじゃないかな。何か適当な理由と殺したい相手を見繕って」


 ロックもロックだがルークも相当なものだとクスイーは思った。二人とも考え方や感じ方が自分たちとは違うのだろうとクスイーは納得することにした。


「ジェイ、居るよね」


(なんじゃ、付いて来いと言ったのはお主だろう)


「ありがとう。じゃあ、後は頼むよ」


 ルークが殺しの依頼をしたら、その人間が誰と会ってどんな話をするのかジェイに追いかけてもらうのだ。上手く行けば黒幕までたどり着けるかも知れない。少なくともヴォルデス道場が摘発されてしまったので別の実行部隊と接触するだろう。その際には幹部のような存在が関わってくる可能性が高い。


 ロックがそこまで考えてここまで来たのかは判らないが、事の本質を見抜く直感はさえているのかも知れない。それをなんとか形にしなければいけないルークの苦労は絶えないのだが。


 ルークは店の店員の男を捕まえて話し出す。相手は最初は訝しがっていたが、少し金を握らせると奥に連れて行ってくれた。ロックとクスイーは大人しく待っている。


 暫らくするとルークが戻って来た。


「どうだった?」


「うん、なんとか上手く行きそうだ。ローカス道場の人はヴォルデス道場の件に関わっていて依頼対象には出来なかったので仕方なしにルーリ=メッセスの名前を借りさせてもらった。困った時には何でも申し出てくれと言ってたから」


「おいおい大丈夫か?」


「事情は話して、ちゃんと彼を護衛しないとね、そこはロックの出番だ」


「判った、任せろ」


「あとはジェイとソニーの報告待ちだね」


 やはりルークも普通の考えの人ではないとクスイーは少し怖くなってきたのだった。

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