第146話 ヴォルデス道場②
結局問い詰めると(一般的には脅すとも言うが)ソルは全てを白状した。ヴォルデス道場と同等の私塾を狙って一番強い奴を闇討ちしていたのだ。
あまり続けてしまうと目立つので数年に一度くらいは襲っていたらしい。その被害にローカス道場もマコトの父親の道場も遭ってしまったのだ。
どの道場を襲うのかは適当だったらしい。その前年にヴォルデス道場が当たって負けた、とか、少し話題になっていたとか。
殺すつもりで襲っていたわけではないが、死んでも構わない程度には痛めつける事にしていた。それでクスイーの父親は命は助かったがマコトの父親は命を落としてしまったのだ。
襲うのは最後に出てきた師範代を中心に師範代全員の4名で実行していたらしい。そこまで聞き出して二人に問う。
「それで、こいつらをどうする?」
マコトは元々復讐するために探していたのだ。中々見つからなかったがやっと犯人の全貌が知れた。クスイーは勿論犯人には憤りを感じていたが復讐しようと探したりはしていなかったし、思っても居なかった。今犯人だと知れたところで戸惑っている、というのが本音だった。
「俺は、こいつらを許せない。親父と同じ目に遭わせてやりたい」
マコトの目は真剣だった。父親が死んでからずっと、そのことだけを考えて生きて来たのだ。
「それはこの人たち全員を殺す、ってことになるよ」
ルークが思わず確認する。マコトが復讐の為に誰かを探しているとは想像していた。いずれこんな場面がくることも。しかしマコトに人殺しをさせる訳にはいかない、と思っていた。
敵討ちは一応認められていたが、それは正式に申請し許可を得てうえで立合っての事になる。滅多な事では許可は下りなかった。特に一般人ではほぼ許されない。殺された者が貴族で犯人が一般人という場合が殆どだ。見せしめの意味合いが強い。
「当り前だ、俺はそのために今まで生きてきたんだ」
ロックたちの前には師範と師範代4人が後ろ手に縛られて座っている。塾生たちは多くは帰ってしまっていたが残った数人は遠巻きに見ているだけだ。道場の行く末を心配しているのだろうか。
「駄目だ。そんなことをしたら剣士祭にでられないじゃないか」
ロックが真剣に言う。ロックなりに心配しているのだ。多分。そうに違いない、とルークは自分に言い聞かせる。
「馬鹿かお前は。剣士祭より敵討ちが大事に決まっているだろう」
「馬鹿はお前だ。俺はお前と剣士祭に出場する。絶対にだ」
ロックは真面目に真剣な眼差しでマコトに詰め寄る。マコトはロックが本当に剣士祭に出て欲しいだけなのかを測りかねている。
「クスイーにも意見を聞きたいな」
ルークが少し助け船を出す。
「僕は、この人たちが父を襲った犯人ならばちゃんと捕まって罪を償ってほしい。それと父に謝ってほしいです」
クスイーならそう言うだろうとは思ったが、ルークは改めてクスイーの人の好さを再確認していた。道場が潰れかけてしまったのも、こいつらの所為なのに。
「そんな甘いことを言っているからお前ははんにんまえなんだよ」
マコトの怒りは今度はクスイーに向かう。この場で5人全員を殺すことはできない、と判っているが怒りが収まらないのだ。
「それがクスイーなんだよ。お前も見習うべきだ。そして俺たちは一緒に剣士祭に出場するんだ」
マコトもロックやルーク、アクシズもクスイーもいる中で勝手に5人を殺すことは不可能だと理解している。ただ気持ちが納得しないだけなのだ。
「判った。仕方ない。もう言わない。それでこいつらをどうするんだ?」
「当然騎士団に引き渡しますよ。マコトの父親を殺したりクスイーの父親に怪我をさせた犯人ですから」
「それでどうなるんだ?」
「その辺りは僕では判りませんが」
「まあ、道場は閉鎖、こいつらは牢獄行きか強制労働だな」
代わりにアクシズが応える。
「多分余罪もあるだろうから、一生出られないんじゃないか」
「そんなところですか」
「不満か?」
「死罪にはならないんですか?」
州によって違うがガーテニア州には死罪があった。
「余罪によっては死罪もあるだろう。どうだ、これで少しは納得したか?」
「全然納得なんかできない。でもお前たちと剣を交えてまでこいつらを殺すのは無理だと思っただけだ」
それはもしかしたらマコトの本音だったのかも知れない。
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