第127話 ローカス道場Ⅱ③
「歴史には詳しくないみたいだが、シャロン公国建国史は流石に知っているだろ?」
二人は顔を見合わせる。
「ああ、判った判った、そこからだな。シャロン公国を作ったのがマーク=レークリッドということはいいな?」
「僕の名前はそのマークとルーズと言う神からとって義父が付けてくださったからそれは知っているよ。」
「レークリッドが今のシャロン公国を建てる前は知っているか?」
勿論二人とも知らない。ロックは習っているはずなのだが、覚えていなかった。覚える気も無かったのだ。
「マークが倒したシャロン王国と言うのがあったんだ。元々マーク=レークリッドはレークリッド王朝の子孫だったから復興したということだな。当時シャロン王国はハーミット王朝が続いていたんだが、そのシャロン王国で代々宰相を預かっていたのが我がバレンタイン家だったんだよ。シャロン王国が倒された時の最後の宰相がレリック=バレンタイン、何代か前の俺の直系の先祖だ。」
ロックもルークも歴史はからっきしだったが、アクシスが今は廃れてしまった名家の子孫であることは理解した。
「で、その宰相家の子孫は今は何をしているんだ?」
出自は判ったが、それが今のアクシズそのものとは本来無関係の筈だ。
「俺は、というかバレンタイン家はもう俺しか残っていない。俺は今はただの旅人だよ。各地を回って見分を広げている。ソニーとはアストラッドに行ったときに偶然出会って、マゼランで再会したんだ。」
ロックは気が付いていないようだがルークは敏感にアクシズの嘘に気が付いた。ソニーとはそんな簡単な関係ではなくもっと、こう運命共同体というような関係だと感じていたからだ。しかしルークはその不信感を表情にも出さなかった。
「そうなのか。まあ自由の身という奴だよな、それは有難い。強さは俺か保証するから剣士祭で優勝を目指すぞ。」
ロックはやる気満々だった。ルークはその陰で気苦労が絶えないが、アクシズのこともロックに言うつもりはなかった。ロックには純粋に剣の道を極めて欲しいと思っているのだ。ロックに危害を加えるようなら話は別だが、アクシズにはアクシズの思惑が、ソニーにはソニーの目的があるだろうから、それを妨げる気はない。ルークは自分たちの敵だと決定してから考えるつもりだった。
「俺のことはいいとして、あのマコトという奴は大丈夫なのか?」
ロックは掻い摘んでマコトがローカス道場に入った経緯を話した。加えてランドルフ道場との因縁についても詳しく話をした。クスイーが居ないので包み隠さず話ができた。ランドルフ道場の件については、剣士祭までにちょっかいを出してくる可能性もあるので注意喚起のためだ。
「彼はひ弱そうだが大丈夫なのか?」
「それは彼の剣を見てないからだよ。剣の速さで言うと俺たち五人の中では一番だ。」
「まさか。」
アクシズは信じられない、と言う表情だ。
「もしそれが本当なら俺たちはもしかしたら相当いい所まで行けるかも知れんな。」
何かを企んでいるのかもしれないがアクシズの素直な感想の様に聞こえた。
次の日から五人の修行が始まった。ロック、マコト、アクシズの三人でクスイーに修行を付ける。クスイーが疲れると一旦休ませてマコトやアクシズとロックが立合う。ルークはあまり参加しないで外で情報収集にあたることが多かった。
「確かにクスイーの剣の速さは異常だな。その速さと剣技が全く釣り合っていない。これは少々骨が折れそうだ。」
アクシズの剣は堅実な剣だった。基本が相当高いレベルで出来ている。ロックは基本に忠実とは言い難かった。クスイーの修行にはアクシズが付き合うことが最適だということになった。自然マコトはロックと試合う事になる。
「こいつは手加減という事を知らないから負けてばかりで嫌だ。」
マコトが不平を言うがロックから一本取ることを虎視眈々と狙っている。今のところ一度も成功してはいなかったが。
四人が各々修行をしていると来客があった。アイリス=シュタインだった。
「へぇ、ちゃんと五人揃えられたのね。とても無理だと思っていたわ。」
「ア、アイリス、出歩いて大丈夫なの?」
「あなたに心配される覚えは無いわ。ちゃんとリンクが付いてきているもの。」
確かに外でリンク=ザードが待っていた。道場の中までは入ってこない。リンクはルトア道場の師範代の筈だが塾生を教えるのではなくアイリスの護衛のつもりなのだろう。
「それでもやっぱり気を付けた方がいいよ。」
「判っているわよ。折角剣士祭に出られなくて落ち込んでいる姿を見に来たのに、残念だったわ。じゃあ、せいぜい頑張ることね。五人のうち一人があなたなんだから他の人の足を引っ張るんじゃないわよ。」
アイリスはそう言い残して直ぐに去った。
「なんだったんだろう。」
「クスイーを心配してきたんだよ、そんなことも気が付かないのか?」
マコトにそう言われてもクスイーには何の話が判らなかった。ロックもそういったことに無頓着だがマコトは直ぐに気が付いたのだ。アクシズは元々聞いていたから、ああこんな感じなのかと納得していた。
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