第121話 ローカス道場⑦

「そうか、ソニー=アレスが見つかったのだな。それでうちから出てくれると。ちょっと協力的なのが逆に怖いな。」


 ロックの感想はルークも感じていたところだ。そもそもソニーのマゼランに居る目的が判らない。何かを企んでいることは確かなのだが。


「まあ、手伝ってくれるというのだから頼ろうよ。背に腹は代えられないしね。」


「それもそうか。で、あと一人は?」


 ミロもルークも目を合わせようとしない。今のところ何の手掛りもなかった。明後日に迫った締切に間に合うのだろうか。とりあえず出場者の登録をしておけば変更は前日までなら可能らしい。ただし当日五名が揃って居なければ、その時点で失格となる、とのことだった。 

「もうちょっとある。なんとか見つけてこないと。俺とクスイーも行こうか?」


「いや、闇雲に探しても無理なものは無理だと思うから二人は修行に専念しておいてよ。明日はアゼリア州騎士団御用達の道場にもいってみる。立場を利用するのは本当はやりたくないんだけど。」


 ルークとしても自分だけが我が儘を言ってはいられない、と思ってのことだ。ルークのことがちゃんと通達されていることを祈って。


「で、クスイーの方はどうだい?」


 珍しくロックの表情が曇る。


「いや、確かに剣の速さは一級品なんだ。それは間違いない。ただ、」


「ただ?」


「それを生かす術が皆無なんだよ。一回振り下ろせばそれで終わりで二の太刀が無い。相手の剣もほとんど受けられない。駆け引き何て夢の夢だ。」


 これは間に合わないかも知れない。


「でも、少し希望もあるんだぜ。」


「希望?」


「そう。結局剣を振る速さは一級品なんだからそれを色々と応用できるようにすればいいんだ。実は俺が打ち込む速さよりクスイーの方が早いもんだから受けられずに空振りしてしまう、というのが判ったんだよ。」


「そこまでの速さなのか、凄まじいな。」


 相手の剣より速いから受けられないなんて想像も付かなかった。そんなことが現実にあるものなんだ。それもロックの剣ですら凌駕してしまうほどに。


「時間を掛ければ、まあなんとか形には出来るかも知れない。素振りのやりすぎで型が固まってしまっていて、解すのが大変で、そこが一番時間がかかりそうだけどな。」


 ロックの苦労が目に浮かぶ。クスイーといえば、道場の真ん中で大の字で倒れている。ずっと一人で素振りを続けていたのがロック相手に打ち合うのだ、いきなりで疲労ぐあいは想像も付かない。但し、これから毎日続くのだろう。


 伸びているクスイーを無理やり起こして夕食を取らせる。ミロの料理は最初酷かったが最近は少し食べられるようになっていた。


「ちゃんと食べておかないと明日も修行キツいからね。しっかり食べてしっかり寝てしっかり修行しないと。」


 もしかしたらミロが一番厳しいかも知れない。


 次の日、ミロとルークはアゼリア州御用達のモントレー道場を訪れた。ルークの件はちゃんと伝わっていて紋章入りの細剣も十分役に立った。


「ルーク様。それでこちらにはどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」


「ザビス=モントレー様、どうか普通にお話しください。僕はロジックの名を名乗ってはいますが、狼公の血縁でも何もありません、ただの市井の一般人です。逆に話し難いので。」


「判りました、そう仰るのでしたら。で、どうされました?」


 ザビスはモントレー道場に何かの否があって咎められるのかと心配していたのだ。モントレー道場は確かに他の道場と比べると大きくはない。アゼリア州自体は剣が重宝されているお国柄なのだがモントレー道場には最近強い剣士が出ていなかったので人気があまりなかったのだ。剣士祭でも活躍できてはいなかった。


「実はロック=レパードとローカス道場に入ることなりまして剣士祭に出場するのに人数が足りないのです。それで心当たりがないかとお聞きしたくて来ました。」


 自分が責められるのではないと聞いて安心したのか、ザビスはほっとした表情を浮かべた。


「そうですか。しかし実は当道場も手練れが五人は中々揃わず困っているところなのです。」


 どこの道場も剣士祭で名を挙げて塾生を多く集めたいのだ、自分たちの準備で手いっぱいで手伝ってくれるはずもなかった。

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