第120話 ローカス道場⑥

 ロックをクスイーの修行に残してミロとルークは街に出た。あと二人、剣士祭に出場してくれる剣士を探さなくてはならないのだが二人とも全く当てが無かった。


「で、どうするの?」


「うーん、どうしようか。」


 いくら考えてもいい案は浮かばない。塾生募集の貼り紙をしても誰も来ないのだ。


 かと言って他の道場からの引き抜きが出来るほどの道場ではない。元々は隆盛を誇っていたが今は見る影もないのだ。


 街行く人にローカス道場に入らないか、と声を掛けても、道場の名前を出すだけで鼻で笑われるだけだった。それほど逆に有名な道場なのだ。


 ルークは最後の望みに掛けることにした。


「ジェイ、見つかったかい?」


(うむ、確かに居たぞ。今でもいるようだ。)


「そこに連れて行ってくれるかな。」


(判った、付いてまいれ。)


「何?どうしたの?ジェイが誰か見つけたの?」


 ミロには全く判らなかった。ルークは誰かをジェイに探させていたのか。でもルークがマゼランに知り合いがいるとも思わなかったが。


 ジェイに付いて行くと宿屋街に入った。少し高級そうな宿屋の前で止まる。


(ここだ、今いるようだな。二階の一番奥の部屋だ。)


「判った、ジェイは外で見張っていて。ミロ、行こう。」


「行くのはいいけど、誰に会いに行くのよ。」


「なんだ、気が付いてなかったのか、ソニーだよ、ソニー=アレス。」


「ソニーってあのソニー?そう言えばエンセナーダに居たって言ってたわね。今はマゼランに居るのね。」


「そう。この街での知り合いは彼一人だから、何かいい知恵はないか頼ってみようと思って。」


 実はそれだけではない。ルークはソニーの動向には関心があったからだ。何の目的でエンセナーダやマゼランにいるのか、アーク=ライザーはアストラッドに戻ったらしいのに一人だけ残って何をしているのか、手掛かりでも見つかれは、と思っていたのだ。


 コンコンコン。ソニーの部屋をノックする。警戒してドアの外を探っている気配がした。簡易の魔道だがルークは態と存在を明らかにするように気配を絶たなかった。


 ドアが開くとソニーが居た。


「どうしたんです、ルーク=ロジック。なるほどさっきのはあの使い魔でしたか。誰かが僕を探りに来たとは思っていたのですが。」


「悪いね、ちょっと頼りたいことがあって君を探していたんだ。」


 ルークは現状をソニーに簡単に説明した。


「ロックさんらしいですね。彼は本当にアークに似ている。剣に対して真っ直ぐなところがね。そうですね、少し考えてみますか。」


「君が出てくれてもいいんだけどね。」


「えっ。僕がですか。なるほどそう来ましたか。でも僕もアストラッド州の太守の息子です。アストラッド州騎士団の専属道場もありますから、そちらの道場で出場するのはちょっと。」


「それはいいんじゃないかな。ロックは聖都騎士団副団長の息子だし僕も一応アゼリア州太守の養子になっているから自由道場であるローカス道場からなら問題ないと思うんだ。助けてほしいんだよ。君が出てくれたらあと一人になる。」


 ソニーは少し考えていたが、直ぐに決断した。


「判りました、他に二人集まらなければ一人は僕が出ましょう。でも僕は剣の方はそれほどではありませんよ?ロックは勿論、君にも到底敵わない。」


「いや、ロックは別として僕となら違いは無いと思うよ。僕も色々と強い剣士を見て自信がなくなりつつあるんだ。」


 ソニーが出てくれればあとは一人。一緒にいることでソニーの動向も知れる。一石二鳥でルークはとても満足だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る