第117話 ローカス道場③
「俺の身元を開示すればいいかい?それとルークも。」
どうもロックはルークの素性を明かすことに快感を覚えているようだ。
「あなたたちはいったい何者なのですか?」
ロマノフは自信満々のロックに少しだけ不安を覚えたようだ。
「俺はロック=レパード。最近名乗ってばかりだが父は聖都騎士団副団長をやっている。そして、こいつはルーク=ロジック、アゼリア公の養子だよ。」
塾生たちがざわつく。アゼリア公の養子というのは今一よく判らないが聖都騎士団副団長は名前が通っているるし、その息子が御前試合で優勝したことは当然知っていた。
「ロック=レパードという名前には聞き覚えがありますね。ただルーク=ロジックという名前は、もし詐称なら重い罪になると思いますが大丈夫ですか?」
「心配はいらない。俺はロック=レパード本人だし、彼は確かにアゼリア狼公の養子に間違いない。」
正式な騎士団員なら騎士団発行の鑑札プレートを持っているのだがロックやルークは騎士団員ではないので特に身元を証明するものを持ち合わせて居ない。商人なら商人で核都市の商業ギルドが発行する交易許可証を持っている。
「自分では何とでも言えますからね。」
「では剣で証明しようか?」
ロックの思う壺だった。最初からこれを狙っていたのだ。まんまとロマノフはロックの作戦に乗ってしまった。剣で証明する、と言われて最強を謳っている道場が逃げる訳には行かないのだ。
ロマノフとしても急に出場の可能性が出てきたローカス道場の出場者になるかもしれないロックの腕を確認できるのは、それほど悪い話ではない。アイリスのことが放ったらかしになってしまっているが、アイリスにしてもランドルフ道場に警告に来ただけなので問題なかった。
「では中へどうぞ。」
ロマノフに促されてロックとルーク、クスイー、それにアイリスもランドルフ道場に入った。ルトア道場の関係者はアイリス一人だけが入ることを許された。
ランドルフ道場は流石に大勢の塾生を抱えているだけあって相当広かった。ローカス道場よりはずっと大きい。
「なんだ、どうした、ロマノフ塾頭、騒ぎはお前の所為か?」
尊大を絵にかいたような壮年の男性が出てきた。
「これはロズウィル師範。騒ぎの元はルトア道場のアイリス嬢なのですが、今はローカス道場の方と少しここで手合わせを願っているところです。」
ロマノフは掻いつまんで経緯を説明した。実はボルド=ロズウィル師範は全て把握しているので、ただの粗末なお芝居だった。
ランドルフ道場が潰れる寸前のローカス道場の者に負ける訳にはいかない。少なくとも負ける要素のありそうなロックとの試合はロマノフに相手をさせるわけには行かなかった。
ロマノフは道場主であるサーシャ=ランドルフの孫でいずれ道場を継ぐ身なのだ、こんなところで傷を付けられない。
「なるほど。ではロック君とやら、君の腕前を見せてもらおうか。一対一の試合でいいね。」
「いいですよ。いつてもどうぞ。」
「こちらも少し準備があります。ここでお待ちください。」
そう言うとロマノフとボルドは引っ込んでしまった。ロックたちは塾生たちの輪に囲まれて逃げられないようにされている。ただ、ロックは何とも思ってはいなかった。
「じゃあ、始めようか。」
塾生の一人が言う。ロマノフもボルドも戻っては来ない。
「いいのかい、塾頭さんや師範が居なくても。」
「いいんだ、俺が仕切るように言われている。さっさと用意しろ。」
さすがに真剣では立合わない。ロックは壁に掛けられている木刀を選ぶように指示された。ロックは重そうだが頑丈そうな一振りを選んだ。
「では最初は、お前だ。行け。」
言われた塾生は中心に立ってロックと対峙する。最初は?
「始めろ。」
いきなり塾生が上段に振りかぶって突っ込んできた。ロックはそれを簡単に往なす。相手が振り返った途端にロックが斜め上から木刀を振り落とす。相手はそれをなんとか受けたが手が痺れてしまって木刀を落としてしまった。
「そこまで。次。」
すぐに次の相手がロックと対峙する。一対一だが相手は一人ではなかったのだ。もしかしたら、今いる全員と試合わければいけないのか。ただ、ロックはそれを喜んでいるように見えた。
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