第116話 ローカス道場②

「間違いない、アイリスを襲ったのはこいつらだ。」


 ロックも確認した。道場の表に出て来なければバレないと高を括っていたのだろう。身を潜めているところをブラインドの魔道を使って道場奥に侵入していたルークに見つかったのだ。


「覚えているからまたおいで、と言ったが、こちらが押しかけてしまったな。」


 ルークに連れられてきた一人はアイリスを襲ったリーダー格の男だった。


「しっ、知らない、そんなことは知らない。」


 男はたじろぐ声で弁明するがロックは許さない。


「ほら、そっちの男の腕に俺が付けた傷がある。これでも俺が嘘を言っているというのか?」


「だから知らないと言っているだろう。離せ、俺は関係ない。」


 その時、犇めき合っているランドルフ道場の塾生たちを掻き分けて男が現れた。


「騒がしいですね、どうしましたか。何の騒ぎです?」


「ロマノフ塾頭、いえ、このルトア道場の女が言いがかりを付けて来て騒いでいるだけです。もう帰らせますのでお気になさらないでください。」


 応対していた男が慌ててロマノフと呼ばれた男を下がらせようとする。


「ロマノフ様、私はルトア道場師範ムルトワ=シュタインの娘アイリスです。ついさっき、この道場の手の者に襲われたので抗議に来ました、五人の犯人のうちの二人が彼らで間違いありません。」


「これはこれはアイリス嬢、ご無沙汰しています。なんと、そんなことがありましたか。で、その二人がアイリス嬢を襲ったという証拠でも?」


 ロマノフ塾頭は落ち着いている。何らかの証拠を相手が出せると思っていないからだ。知らぬ存ぜぬで切り抜けられると思っていた。


「証拠はないが証人ならいるぜ。」


 ロックが横から口を挟む。ロマノフはロックの方を見ていない。


「そこに居るのはローカス道場のクスイー君じゃありませんか。ローカス道場も何かうちの道場に言いたいことでも?」


「え、あ、そのアイリスが襲われたのなら僕も黙っていられないので。」


「ほほう、そうなのですか。それは面白いことをお聞きしました。」


 拙い。クスイーに対してもアイリスがネックになることを相手に把握されてしまった。まあ、元々ローカス道場は剣士祭に出てくるとは思っていなかったが。


「俺のことは無視かい?」


 ロックが重ねて言う。無視されるのは気分のいいものではない。確かに顔見知りではないが無視することはないだろう。


「ああ、あなたが証人だと仰るのですね。」


「そうだよ、彼女がそこの二人と他に三人の計五人に襲われていたのを俺が助けたんだよ。全員の顔も覚えている。ルークも覚えているよな。」


「ええ、僕も五人とも覚えていますし、リーダー格だったのは彼に間違いありません。」


「君たちはルトア道場の関係者ですか?だとしたら、その証言は意味をなしませんね。」


 ロマノフは一向に焦らない。


「いや、俺たちは今日ローカス道場に入ったばかりで、彼女を助けた時はまだローカス道場に入ってさえいないから、どこの関係者でもない第三者ってことだな。」


「それはそれで、どこのどなたか存じ上げませんか、迂闊に証言を信用できるものでもありませんね。よろしいですか、そろそろお引き取りいただいても。」


 ロマノフは最後まで落ち着きはなっている。なかなか肝の据わっている奴だ。こいつが黒幕、という事なのかも知れない。

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