第114話 剣の道⑩
アイリスを無事ルトア道場に送り届けた。その際、アイリスを攫った犯人と間違われて、全く聞き耳を持たないムルトワの弟子たちと一触即発な状況になりかけたが、アイリスがなんとか止めてくれた。
ロックとしてはルトア道場の様子が知れるので立合ってもよかったのだが、アイリスの方がロックに塾生を打ちのめされたくなかったのだ。
「ランドルフ道場に行ってみようか、さっきの奴らが居るかも知れない。」
ロックは楽しそうだった。付き合う方は溜まったものではない。特にミロは自分を守る術がないのだ。
「先にローカス道場に行ってミロを預けないと僕たちも身動きできないって。」
ロックは渋々承諾した。だからミロにも修行してほしいのに、という思いが表情にでている。
「やらないわよ。」
ミロは重ねて言う。荒事に長ける気はないのだ。
道場ではクスイーがまだ素振りをやっていた。
「本当に来てくださったんですね。揶揄って居られるのかと思っていました。」
「そんな訳ないじゃないか。今日からお世話になります、先輩。それはそうと、さっき実はルトア道場のアイリスって娘を助けたんだけど。」
「えっ、それは本当ですか。それでアイリスさんは無事なんですか。」
クスイーの表情が変わった。アイリスの名前を聞いた途端、ロックに詰め寄ってきたのだ。
「大丈夫さ、ちゃんと道場まで送って行ったから。それで君はなんでそんなにアイリスのことになると向きになるんだ?」
「え、あっ、それは、その。」
「知り合いなのか?」
ロックは無神経に聞くことを止めない。ロックとミロはお手上げの表情をしている。
「はい、あの、小さい頃は父親が剣士同士で仲が良かったので、よく二人で遊んだりしていました。歳は僕の方が四つほど上なのですが、剣では一度も彼女に勝てませんでした。」
クスイーは今のままではアイリスどころか誰に勝てないだろう。実際道場が盛況のころ、大勢の塾生と立合ったが一度も勝ったことが無かった。
「あの娘も剣士だったのか。ミロに教えてくれないかな。」
「だから、やらないって。今からも行かないわよ、クスイーと留守番しているわ。」
「え、どこかに行くんですか?」
ロックはかいつまんで事情を説明した。
「それでランドルフ道場に乗り込もうと?なんて無茶な、あの道場は塾生だけでも数百人、名のある剣士も十ではききませんよ。そんなところに乗り込んだら大変なことになります。」
「どうなるんだ?」
「袋叩きになりますよ、間違いなく。」
「そうか、袋叩きになるのか、それは面白い。」
ロックの瞳が輝き出す。クスイーは、そんなことを言ったらロックには逆効果だという事がまだ判っていない。
「じゃ、行こうか。」
「聞いてましたか、ロックさん。行ったらどうなっても知りませんよ。」
「クスイー、ロックに言っても無駄だよ。余計意地になって行くことになる。まあ、ミロと大人しく待っててくれればいいから。」
ルークは逃れられないと諦めていた。実はロックもルークも怒っているのだ。剣士祭と言うのなら堂々と剣で優劣を決めるべきだし、女の子を攫って有利に事を運ぼうとする行為が気に入らなかった。ミロで何回も経験しているのだ。許しがたい行為だとルークもロックに負けないくらい憤慨しているのだ。
「僕も行きます。」
三人が三人とも驚いてしまった。クスイーがそんなことを言いだすとは思ってもいなかったからだ。
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