第113話 剣の道⑨
「さて、話してもらえるかな?」
ロックが優しい声で聴く。ルークとミロは笑いを堪えている。こんなロックはそうそう見れるものではない。
「はい。私の名前はアイリス、アイリス=シュタインと申します。ルトア道場の師範をしているムルトワの娘です。」
「ルトア道場っていうと?」
確か聞いた覚えがあった。強い道場の一角だったはずだ。
「ルトア道場はガリア州騎士団の方や騎士団員候補の方々を中心とした道場になります。マゼランでも一、二を争っていると自負しております。」
「というと、君も剣士なのかい?」
「勿論です。私もいずれガリア州騎士団に入るつもりで日々修行をしています。」
歳は多分ロックたちよりも少し若い。レイラと同じくらいか。
「君の素性は判ったとして、どうして追われていたんだい?」
「あの人たちは直接ではないのですがランドルフ道場の息の掛かった者たちなのです。私を拐して剣士祭にうちの道場が出られないようにさせようと、ずっと狙ってきているのです。」
「剣士祭って二か月後だろ?今からそんな物騒なことを始めているのか。」
「剣士祭は二か月後ですが、参加の申し込みはあと少しで締め切ってしまうからです。」
そうか、参加申し込みが必要なのか。知らなかったら間に合わない所だ。まあ、クスイーが把握しているだろうが。
「なるほど、その締め切りに間に合わないと出場できないとなると、今このタイミングが一番ということか。狡賢い奴らだ。で、そのランドルフ道場っていうのは?」
「本当に何もご存じないのですね。ランドルフ道場は聖都騎士団御用達の道場を除くとマゼラン一を謳っているグロシア州騎士団中心の道場です。魔道士と剣士が同等に扱われるガリア州と違ってグロシア州は剣士が重宝されるお国柄ですから、それは熱心に修行されているのです。それはいいのですが、私どものような他州の騎士団の道場を目の敵にしておられるので本当に困っているのです。」
州によって魔道士と剣士の立場は様々に違いがあるようだ。魔道士が上位なのはプレトリア州くらいで、あとはガリア州とジャスメリアは同等、他はほぼ剣士の方が格上だった。あとはバウンズ=レアのみが魔道士の修行の聖地シュタールを有している分、少しだけ魔道士も認められてはいたが。
「いつもは数人の塾生たちと一緒に出掛けるのですが、今日は少し道場の用事が早く済んだので荷物を持って塾生を先に帰らせて私用の買い物をしていたところを狙われてしまったのです。本当に助かりました、ありがとうございました。」
「礼なんかいいよ。剣士祭に締め切りがあることを教えてくれただけで。」
「えっ、まさか剣士祭に出場されるのですか?」
「そのつもりだけど?」
アイリスは少し考えて告げる。
「お止めらなられた方が無難かと思います。ロック様がお強いのは見せていただきましたが、剣士祭出場には最低でも五人必要です。ローカス道場の跡取り息子は今まで一回も剣士祭に出場したことが無い弱虫だと評判ですし人数も揃わないでしょう。」
痛い所を突かれた。確かに人数は足りていない。クスイーも試合に出場するには時間が掛かるだろう。
「塾生を二人貸しては、」
「無理です。」
食い気味に断られた。
「出場申し込みの締め切りはいつなんだ?」
「明後日までです。」
ルークもミロも無理、と思ったがロックの手前、口にはしなかった。
「ミロ、」
「嫌よ。」
ミロにも食い気味に断られた。
「とりあえず君を道場まで送って行ってあげるよ。俺たちはローカス道場に戻って作戦会議だ。」
ロックはまだ全然諦めていない。
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