第7章 マゼランの三騎竜
第105話 剣の道
エンセナーダから東に向かうとマゼランの街が見えてくる。馬車で三日の距離だ。道中は何事もなくグロウスが用意してくれた御者付きの馬車で悠々と旅が出来た。これほど静かな旅は初めてだったが、なんだか少し拍子抜けしてしまっているのが不思議だった。
このマゼランという街はシャロン公国でも特異な街だった。街全体が剣の修行の場なのだ。剣の修行のために公国全土から若者たちが集まって来ている。聖都騎士団も含めて各州の騎士団入隊候補や候補ではないが騎士団に入りたい者も沢山いた。ここで認められて騎士団に採用されることがあるのだ。
腕に覚えがある者は剣一本で身を立てる目的で夢を追って集まっている。ただ、本当に騎士団に採用される者は少なかった。年に十数人というところだ。それもノスメニア砂漠やアンタレア湖沼群などを有するバウンズ=レア騎士団がほとんどだった。バウンズ=レアはその過酷な自然状況から騎士団員の成り手が少なかったのだ。
バウンズ=レアの奥地、レアナ山脈の麓にあるシュタールには魔道におけるマゼランのような街シュタールがあり、その街を守護することも重要な任務だった。バウンズ=レア騎士団に入りシュタールに赴任して魔道の修行も並行して行う猛者も少なからずいるのだ。
マゼランで修業しているのは聖都騎士団の若者が多い。それだけで千人を超える。貴族の子弟がほとんどだか剣の腕だけで聖都騎士団に採用されたような者の子弟も居る。ロック=レパードの父、バーノンは貴族ではなかったが剣の腕だけで聖都騎士団副団長であり大将軍を拝命するまで上り詰めている。ロックがマゼランで修行するのは、十分あり得ることなのだ。
聖都騎士団とガーデニア州騎士団を除くと、マゼランに騎士団員を派遣するには多くの資金が必要であり、期待されている少数精鋭だけが集まっている。いずれ各州の騎士団を担う者たちだ。
「宿は決まっているんだっけ?」
「ちゃんとグロウス先輩が手配してくれているはずさ。ああ見えて気配りのできる先輩なんだ。」
「学生時代は楽しかったんだろうね。公太子も交えて。」
「あの人が一番悪かったさ。俺やグロウス先輩は公太子を、当時は立太子されていなかったんで、ただのレイズ=レークリッドだったけどな。あの人に振り回されていただけだ。」
悪だくみを考えるのがレイズの役目だった。グロウスは実行役だ。そして、ロックは後始末役だった。ただし、逃げ足は一番早かったのだ。三人の悪戯はほとんどバレなかった。要領が良すぎて誰も気が付かないこともあった。それでは詰らないので態とバラすことがあったくらいだ。ただそれは犯行声明のような方法で結局誰も犯人と判らないようにしていたのだが。
「まあ、バレてもレイズ公太子なら怒られなかっただろうけどね。」
「いや、先生たちはレイズを特別扱いしてなかった。生徒は生徒として平等に扱っていたな。ただ証拠を残さないんで怒られなかっただけだ。」
セイクリッド青年学校は自由な校風ではあったが締める所はちゃんと締めていて公太子であろう公爵家の子息であろうと成績が悪ければ落第させられるような学校だった。レイズは学年でも常に5位以内だったのでそんな心配は皆無だったが。
「レイズは成績も良かったしな。」
「ロックはどうだったの?」
ミロが興味津々で聞いてくる。
「俺は剣では誰にも負けなかったさ。」
「ロック、ミロは剣の話はしてないよ。」
「成績は、まあ、それなりだったさ。落第は一度もしてない。」
「その分だとギリギリで落第は免れたみたいね。」
「煩いな、俺は剣が命なんだよ。剣だけ強ければいいんだ。シャロン公国一をめざしているんだから。」
ロックが言うと強ち夢ではない気がする。シャロン公国内の強者全てと立会したい、というのがロックの夢であり目標なのだ。そして、その最初の舞台がこのマゼランだった。
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