第104話 暗躍Ⅲ⑩

 やはりノストは何も話しはしなかった。魔道で強制的に話させることも出来たがガーレン=ロッドス在京との連絡がついていない時点では難しい。財務卿の承諾があれば問題ないのだが、そんな承諾をくれる筈が無かった。


 ただ、財務卿は自分が知らないこと、ノストが勝手にやった事として、ノストを切り捨てる可能性もある。


 ガルド老師やソニー=アレス、ルーク=ロジックとジェイも含めて魔道の残滓を探ったのだが何一つ見つからなかった。それほどの魔道士が相手という事になる。


 やっと連絡が付いた財務卿からはノストを引き渡すように、という強い要望が伝えられた。ノストは脅されていただけで関係がない、ノストにしても屋敷を貸していただけだ、ということだった。


 それが本当のことかどうかは関係がない。単純な力関係の話だった。そして、この件には太守であるカール=クレイは関係しない。お互いに不問、という結論だ。


 直ぐにノストは騎士団詰所を後にした。ただ、屋敷は閉鎖されている。ノストはそのままセイクリッドに戻るという事だった。ロッドス家については、これで終わり、ということだ。


 アクトレス家についてはそうもいかなかった。裁判にかかり、いずれは一族郎党に罪が及ぶことも十分考えられる。ワーロンとディアナはガーデニア州で用意した屋敷(牢獄ではない)に一生幽閉されることになるだろう。


 黒幕の魔道士の正体が全く判らなかったので何も解決していないようにも思えるが、事件としては落着したことにするしかなかった。今後、また何かが起これば、それに対処するしかない。


 一行は、何かに負けたような気持でグロウスの屋敷に戻った。


「全然解決した気にはならないな。」


「ロック、そういうけどアクトレス家の夫妻は拘束されて、ブランは亡くなったんだ。曲りなりにも事件は解決したと思わないと。」


「それはそうなんだがな。」


 ソニーとガルドはいつの間にか消えていたのでグロウス男爵家には来ていない。レイズ公太子とダーク=エルク、カシル将軍は黒鷹城に戻った。多分直ぐにセイクリッドに立つだろう。正式な訪問ではないのだ、長居する訳にはいかない。護衛と言う名の監視をつけてではあるだろうが。


「それで、お前たちはどうするんだ?」


「グロウス先輩、俺たちは元々修行の旅だったので、その本分に戻るだけですよ。」


 ロックとルークは修行とルークの記憶を戻す手掛りを探す旅をしているのだ。


「あなたたち私のことを忘れてない?」


 突然後ろから声を掛けられた。


「忘れる訳ないだろ。バタバタして構ってやる時間が無かっただけだ。」


 正直、ミロのことはすっかり忘れていたロックはドキッとしたが誤魔化した。


「そうだよ、ミロ。ロックはミロのことを凄く心配していたんだから。」


 ルークも実は忘れていたのだが、ロックに乗っかって誤魔化した。二人とも事件解決に没頭してしまっていたからだ。


「ミロ嬢、二人は本当に忙しかったのだ、許してやって欲しい。」


 グロウスは折角誤魔化せていたものを台無しにしてしまった。


「やっばり忘れてたんじゃない。」


「まあまあ。ところで、これから本当にどうする?」


「元々の目的地はマゼランだったから、とりあえずはマゼランだな。」


「マゼランか、判った、俺がちゃんと話を通しておいてやるから、安心して行くがいい。」


 ロック、ルーク、ミロの三人とジェイ一行の目的地はシャロン公国内での剣の修行の聖地マゼランに決まった。

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