第103話 暗躍Ⅲ⑨

「おまえはそれで結局何がしたかったのじゃ。」


 苦虫を噛み締めるようにガルドが言葉を絞り出した。優秀であった弟子が道を踏み外し、一度は破門したものの気に掛けていなかった訳ではない。


「老師。私の願いはただ一つです。死者蘇生、ただそれだけです。私は神に挑みたかった。誰にも絶対的に訪れる死を克服したかった。血の研究はその一環です。若返りは成功したのです。そのための犠牲は仕方ないのではありませんか?」


 ブランは何も悪いことをしたとは思っていない。ただ自分の研究を淡々と行っていただけなのだ。それが他人の命を奪うことになっても、研究を進めるためなら仕方ない。


「もうお前は引き返せないのだな。自分の過ちを認識出来るまで牢獄で反省するが良い。その前にお前の封印を解いた魔道士の名を言うのだ。嘘を吐いても判るぞ。」


 ガルドがブランの眼を覗き込む。ブランの眼の焦点が合っていない。


「拙い。」


 ガルドが叫んだ。その時、ブランの身体が突然四散した。身体の内側から爆発したのだ。ブランの血を浴びた床や壁はドロドロに解けてしまった。何かの酸のようなもののようだ。部屋に居た者たちの反応は早かった。ガルドを含めて全員が魔道で結界を張るか部屋に外に避難していた。それぞれが一流の者しか入って居なかったことで誰一人被害には会わなかったのだ。


 ただこれではブランからの情報は得られない。ブランを操っている魔道士は痕跡を残してはくれなかった。


「危なかったですね。」


「お主たちも素早いの。ルークとやら、儂の弟子にならんか?ソニー同様に鍛えてやろうぞ。」


 一旦ルークの影に避難したガルドが、今度はロックの影から出て来た。


「それは勘弁してください。」


「老師、ルークにはルークの道があるのですから無理を言ってはいけません。」


「ソニーよ、お前はそう言うが、なかなか儂の元で本格的に修行をせぬではないか。」


「僕にも僕の事情があるのです。お判りでしょうに。」


「だからよ。お前の代わりにルークを鍛えることが儂の楽しみになろう。」


「老師、折角ですが。」


「判っておるわ。クローク、ドーバ、キスエルの数字持ちへの遠慮も含めてな。」


「それにしても老師、これで手掛りは亡くなってしまいましたね。」


「あとは、そうじゃな、あの執事か。」


 ノストはある程度の情報は持っているはず、と言う一縷の望みはあったが、多分ノストは何も話さないだろうとも思われる。場合によってはロッドス財務卿からの厳重な異議申し立てでノストを開放せざるを得ない状況も十分に考えられる。


 一行はとりあえず屋敷を封鎖しノストを城ではなく騎士団詰所に連行するのだった。

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