第101話 暗躍Ⅲ⑦
ガルド、ソニー、ルーク、ジェイがそれぞれ四つの屋敷にブラインドの魔道を使って侵入していく。ブラインドの魔道は姿は消せるが身体そのものを消せる訳ではない。何かの罠にかかってしまう危険もあるし犬が放たれていると臭いも消せないので見つかってしまう可能性もあった。
幸い四つの屋敷の庭にはいずれも犬は放たれていなかった。飼ってはいるが屋敷の中で、というのが今のガーデニア州の貴族の中で流行っている飼い方だったのが幸いした。
四人が四人とも、何事もなく戻って来た。ブランも見つけられていなかった。残るは一つ、ガーレン=目ロッドスの屋敷だ。
ガーデニアの貴族であればガーデニア内で処理が出来る。ところがロッドス家の屋敷は出屋敷であり、ロッドスがシャロン公国の財務卿であることから、事はガーデニア内で死を利することが出来ない。一番最悪な結果になりそうだった。
「もうあの屋敷しかない、ということですか。」
「そのようじゃの。財務卿は拙いのではないか?」
「拙いですね。グロウス、頼みがある。」
「どうした兄者。」
「城に戻ってレイズ公太子を連れてきてほしい。親衛隊のダーク=エルクも一緒に。」
カシルは偶然来ていたレイズ公太子を利用することに決めた。公太子にロッドス家を訪ねてもらう。その時、一緒に従者として屋敷に入り込む。そこでブランを見つけだす。単純だし公太子が危険に晒される可能性もあるが、他にいい案が浮かばなかった。
「公太子を囮に?大丈夫ですか。」
ルークが心配するのも無理はない。大勢の命を奪った黒幕の魔道士なのだ。それも、かなり高位の魔道士だった。レイズ公太子は絶対にお守りする、でないとロッドス家を捜索するどころの騒ぎではない。エンセナーダが聖都騎士団に攻撃される可能性すらあるのだ。
「よい、儂が公太子を守ってやろう。ただしブランを見つけたら直ぐに知らせよ。儂が直接話をしたいからの。」
公太子の件はガルド老師に任せて大丈夫だ。あとは精鋭を厳選して屋敷に踏み込むだけだ。
グロウスは公太子を連れてすぐに戻って来た。
「やっと前線に出させてもらえるのだな。」
レイズ公太子は嬉しくてたまらなかった。何回も留守番ばかりしてきたのだ。やっと自分の出番が来た、とワクワクしていた。
「よし、では行くぞ。」
レイズが仕切ってグロウスやロックが続く。青年学校当時の悪戯の乗りだった。ダークは気が気ではなかったが、カシルから頼まれて口実が出来たことも含めて最早公太子を止める術はない、と諦めていた。何かあったら自分が守るしかないが魔道で攻撃されたら対処できない。そこは味方の魔道士たちに任せるしかなかった。
「頼もおぅ。」
「公太子、いつの時代の話ですか。」
「何かで読んだのだ、こう言った言い方をするのだと。いいではないか、面白ければ。」
「公太子、面白がるために来たのであません。ブランと言う魔道士を捕まえに来たのですよ。」
「判っている。ちゃんとやることはやる。いつもそうだったろう。」
確かに公太子は有言実行タイプだった。
公太子の呼びかけにロッドス家の屋敷の重い扉がゆっくりと開いた。
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