第100話 暗躍Ⅲ⑥

 目立たないように少人数でガルドに連れられて貴族の屋敷が建ち並ぶ区域にやって来た。


「こことここ、それにあそことあっち、最後にこの裏の屋敷、大体この5軒までは絞れたのだがな。」


 それはいずれも大貴族たちの屋敷だった。アクトレス家に勝るとも劣らないクラスの貴族たちだ。ただ1軒だけガーデニア州の貴族ではなくシャロン公国中央の貴族のガーデニアにおける屋敷があった。


 シャロン公国財務卿ガーレン=ロッドス侯爵の屋敷だ。アストラッド州太守のディーン=アレス侯爵とは爵位は同じだか太守は格上、と決められていた。太守の爵位は建国当時の武王マーク=レークリッドとの関係で決まっており、ガリア、ガーデニア、アゼリアの太守は公爵、グロシア、アストラッド、プレトリアの太守は侯爵となっている。太守ではない公爵も数名は居たが太守である侯爵の方が上席とされていた。


 ガーレン=ロッドス財務卿の屋敷はアクトレス家の屋敷とほぼ同等だった。もちろんロッドス家は聖都セイクリッドにもっと大きな屋敷を構えていたが、それとくらべてもガーデニアの屋敷は遜色ないものだった。ロッドス財務卿が街道の要所であるエンセナーダを重要視していることが伺える。


 他の四つもガーデニア州の重鎮であり伯爵や子爵の屋敷だった。騎士団の関係者もいる。グロウスからすると上司にあたる者だ。


「ここまで来ましたが、どうしますか?」


 今回はカシル将軍も前線に出て来ている。アクトレス家で証拠が挙がっている以上、影で操っている者が居る方が財務大臣の罪としても都合が良かったからだ。誰かに唆された立場として罪一等を減じることも可能だ。


 太守であるカール=クレイ公爵とガーデニア州財務大臣であるワーロン=アクトレス伯爵の仲は普通に悪かった。ワーロンが何かにつけてカールの行動を批判するからだ。だが、その腹いせでワーロンの罪を重くしたと言われることが嫌だった。恩を着せておきたかったのだ。その辺りの機微を息子であるカシル将軍は十分理解している。カシルは何が何でも黒幕を捕まえたかった。


「そうじゃな、儂とソニーと、そこのルークとやらと、おい、使い魔、居るじゃろ、お前だ。その四人で一つづつ屋敷を当たる。中に入って探す、という意味じゃ。」


「老師、それでは全ての御屋敷に踏み込まなければならないということてですか。」


 それは避けたかった。ここまで来たのだ、何か方策があるのではないのか。


「いや、そこはちゃんと考えておる。全員でブラインドの魔道を使って侵入すればよいだけじゃ。」


 ガルドたち四人(三人と一匹?)なら十分それで対応できるだろう。そこで発見できればいいし、駄目でもあとは一軒だけだ。


「では手分けしていくぞ。強力な結界を感じればそれが当たりじゃ。すぐに戻って全員で踏み込む。くれぐれも単独で突っ込むのでないぞ。」


 言われなくても一人で何とかしようとするような無謀な者はいなかった。

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