第99話 暗躍Ⅲ⑤
自由奔放なレイズ公太子を太守が足止めしてくれている、という見方もある。同行すると言い出しかねないし、今回も引き留められる保証はない。
「ガルド老師をここにお呼び頂けますか?」
カシルは丁寧にソニーに頼んだ。知らせもなくガーデニア州に入ったことは不問とする、という前提での話だ。それよりも事件の解決が肝心、という決断だった。
「判りました。とりあえず探れるだけ探ってここに来ていただきましょう。」
ソニーが連絡を取るとガルドは直ぐに現れた。ソニーの影から。影から影に移動する、それで影のガルドと呼ばれているのだ。
「老師、ありがとうございます。私はガーデニア州騎士団カシルと申します。それでいかがでしたか?」
「うむ。儂が探せないとなるとなかなか骨が折れる事態じゃな。このあたり、という所までしか判らん。全体を覆って隠している、というよりはあちらこちらに痕跡を残して攪乱している、という感じだな。悪知恵が働く奴らだ。」
やはりガルド老師でも特定できなかったようだ。
「奴ら?相手はブラン一人ではない、という事なんですね。」
「当り前であろう。ブラン一人に梃子摺る訳がないではないか。儂の弟子だぞ、あ奴は。まあ、破門した元弟子だがな。」
「彼はどんな魔道士だったんですか?」
「あ奴は優秀な素質ある魔道士だった。ただ道を間違えよった。物事の全てが血で解決できると思い込んだ。何故あ奴が血にそれ程拘ったのかは知らん。ただあ奴は異常に血に執着していた。そして他人の血に手を出してしまった。大量の血だ。それを知って儂はあ奴を破門したのだ。血を使う魔道を封じてな。その封印を誰かが解いたのであろう。それが出来るのは限られているがな。」
ガルドが封じたものを解ける魔道士。同じ数字持ちの魔道士である可能性が高い。やはりブランの背後に数字持ちの魔道士の存在があるのは間違いなさそうだ。
「老師には心当たりは有りませんか?」
「うむ。そうだな、ブランを手懐ける可能性、ということであればザトロスやアステアあたりか。もしかするとギアスかも知れん。」
「ギアス?その名は数字持ちの魔道士の中には
その名は無いのではありませんか?」
「ギアスは数字持ちではない。ただ数字を当てられていないだけで我らと同等、若しくはそれ以上の魔道士だが世間では誰もその存在を知らんだろう。魔道士でもギアスのことを知っている者は数少ない。ギアスが相手なら儂もただでは済まないだろうな。」
数字持ちの魔道士第6位の影のガルドが此処まで言うのだ、ギアスが相手でないことを祈るしかない。
「それで、具体的にはどうすればよろしいでしょうか?」
「そうじゃな。儂がある程度絞った区域辺りに出向いて一つ一つ潰していくしか無かろう。」
最悪の提案だ。それだけは出来ない相談だった。
「老師、申し訳ありませんが、そればかりは勘弁していただけませんでしょうか。なんとか一つに絞り込む方策をご提案いただきたいのですが。」
「では、とりあえずその辺りに行ってから考えるとしようか。」
深い考えがあってのこととも思えない老師の提案だった。
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