第67話 陸路を行く③
同じように道なき道を行く二台の馬車。その距離は御者の腕とは関係なく縮まらなかった。逃げる方はただただ逃げる。追う方は時折探査魔道で確認しながら追う。どう足掻いても距離は縮まるはずがない。
そして、二台の馬車とはかなり離れた場所、道なき道ではない街道を急ぐ別の馬車があった。
「私をどこに連れて行くつもりですか。」
少年(童顔なので年齢がよく判らない)が聞くが誰も何も応えない。少年は後ろ手に縄で縛られており身動きが出来なかった。
「大人しくしていてくれませんか。」
やっとリーダーと思しき青年が口を開く。少年はロスからずっとこの質問を繰り返しているが一度も応えてもらっていない。
「ロスを出てもう20日ほども経ちます。いい加減行先を教えてはくれませんか。」
「だから、大人しくしていてください、と言っているでしょう。」
少しいイラついて青年が応える。青年はシェラック=フィットという。本来このような南方に居る筈がない北方のグロシア州騎士団参謀長の長男であり自らも参謀を務めている。ロスでの黒死病騒ぎの中、抜け出したアーク=ライザーとソニー=アレスを追って来たのだが途中で見失ってしまった。遠距離の移動魔道を使われては追う術がなかった。ただ海路ではなく陸路なのは確実だったのでエンセナーダを目指すことにしたのだ。
少年はロスでシェラックが拾った、というか無理やり拉致した。黒死病が流行っているとき、そしてキスエル老師がそれを収めるまでの間、ロスの医者が誰も対処できなかった流行り病をこの少年が一人水を沸騰させて消毒する方法で感染を防ぎ始めていたのだ。
その姿を見て、何かの役に立つか、と拉致してきたのだが特に今のところ使い道が無かった。
「そういえば名前も聞いてなかったですね。あなた、名は何と言うのですか。」
シェラックはやっと少年本人に興味が出て来た。アークたちに追いつくまでの暇つぶしではあったが。
「僕ですか。僕の名前はユスティニアヌス、ユスティニアヌス=ローランです。」
「ローラン?聞いたことがありますね。いったいあなたは何者ですか?」
「僕はロンドニアの学者です。東方で見聞を広げる為にやって来ました。」
「見聞を広げるため?そんなことのために遥々ロンドニアから来たというのですか。カタニア通って数か月はかかったでしょうに。」
「そうですね、2年かかりました。途中カタニアでも色々と教えを乞うていたので時間がかかります。やっとシャロン公国のロスに着いた途端、例の黒死病の蔓延に遭遇してしまったのです。」
「2年も。それにしても黒死病の駆除方法をよく知っていましたね。いったい何歳なのですか?」
「黒死病はずいぶん前にロンドニアでも流行ったことがあります。国民の1割が亡くなったそうです。僕の祖父もその際に亡くなりました。その時の経験が文献として残っていましたから対処方法は知っています。幸い薬もいくつか持ち合わせていましたので。でも魔道師の方が対応してくださって収まったのですよね、僕の薬には限りがありましたので本当に良かった。」
ユスティニアヌスは安堵の表情と少しの涙を浮かべた。
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