第68話 陸路を行く④

「それで結局僕は何処につけていかれるのでしょうか?」


 何度問うても答えを貰えなかった問いだった。


「いや、君をあの場所に置いておけない、と思ったから連れて来ただけで、特に君をどこかに連れて行こうという目的はない。」


「そうなんですか。まあ確かに僕を誘拐しても身代金を出してくれる人はいませんしね。」


「そうなんですか。」


 少しはそのことも考えていたシェラックだった。


「ええ。天涯孤独の身ですからロンドニアを離れて戻らなくても誰も困らないし悲しまないと思います。」


 少年は何かを諦めているかのような口調だった。好奇心と知識欲だけでシャロン公国まで来たが、特に故郷に何かを持って帰る使命を帯びている訳ではなかった。


「君を開放してもいい。でも、ここで一人開放されても行く宛があるのかい?」


「行く宛も目的も何もありません。」


「じゃあ、私たちと一緒に来るかい?」


 シェラックは何故だかこの少年に親近感を覚え出していた。放っておけない、という感覚なのかも知れない。シェラックは部下に少年の縄を解かせた。


「そうですね。それもいいかも知れません。」


 少年の知識は有用だ、とシェラックは判断した。幸い少年も拉致されたことを怒っていないようだ。何か自らの運命の全てを受け入れる決心をしているかのようだった。


「シェラック様。」


 随員の一人が声を掛ける。


「どうかしましたか。」


「先行している者がマゼランで二人を発見したようです。ただアーク=ライザーとソニー=アレスは二手に分かれてしまったようで、一応どちらも追ってはいますが、どうなさいますか。」


「だれがどこに向かっていますか?」


「アーク=ライザーはミロールに向かったようです。海路でアストラッドに戻るつもりではないでしょうか。ソニー=アレスはマゼランに残っています。」


「ではソニー=アレスですね。絶対に見失わないように伝えてください。私たちはマゼランに急ぎましょう。」


 グロシア州騎士団参謀のシェラック一行はトレオンからマゼランに向かうため街道の要所エンセナーダを目指すのだった。

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