第63話 ふたたび東へ⑦
ロック、ルーク、ミロの三人が乗る馬車は御者を雇えなかったのでロックが手綱を握っていた。腕は確かだったので速いがあまり揺れなかった。
一方ルシアの乗る馬車は専門の御者ではあったが並の腕だったのでそれ程速くもなく結構揺れた。ロックたちの馬車が見える所まで迫ってきていた。
二つの馬車は前の馬車が視認できるところまで迫っていた。
「おい、止れ、このままだと追いつかれる。迎え撃つから止まるんだ。」
ルシアが大声で指示する。御者は慌てて馬車を停めようとしたが制御を失ってしまい横転してしまった。
全員が投げ出されルシアが意識を取り戻した時にはもうロックたちの馬車は眼前まで迫っていた。
「くっ、くそ。」
「追いついたぜ、ルシア。逃げられないぞ。」
「火を司るクグアよ、我に力を与え、その者たちを焼き払え。」
いきなりルシアは高位魔道の詠唱を破棄して火の魔道をぶつけて来た。ただ火の神に頼んだだけなので威力は弱いがその場しのぎにはなる。
「危ない」
ルークがロックの前に出てすぐさま詠唱に入る。太陽神ソウラの力を借り同じ火の魔道をぶつけて相殺したのだ。詠唱した分ルークの魔道の方が強いが、元々ルシアを攻撃するつもりの魔道ではないので相殺しただけで留まった。
「さすがにやりますね。では、これでどうです?」
今度は闇の神カースの力を召喚しての闇魔道をぶつけて来た。これに飲まれると地の底に引きづり込まれてしまう。ルークはもう一度ソウラの力ではね返した。
遠距離での魔道力の戦いは五分。ルシア=ミストは相当な手練れだったがルークも負けていない。どちらも完全詠唱する隙を与えないので決定打が打てなかった。
「俺の出番だな。」
ルシアの意識がルークに集中しているのを見てロックはルシアの後ろに回り込み対峙した。但し、いきなり切り付けたりはしない。相手に剣を抜く時間を与えて向き合ってからだ。
「そんな甘いことでどうする。私が言うのもなんだが、いつかその身を亡ぼすぞ。」
ロックにすれば後ろから切り掛かるなど思いもしないことだった。敵であれ何であれ、剣で優劣を付けたいのだ。全ての基準がそれだけだった。自分より強いか弱いか、ただそれだけだ。
ロックが対峙したことでルークはもう引き下がっていた。余程のことが無い限りロックは負けない。何か特別な魔道でも掛けてロックを弱らせたり、ルシアが自分を強くしたりしなければロックの勝ちだ。ルークはルシアがロックに魔道を掛けようとするかどうかを見極めていた。今の所はその気配はない。ルークがルシアの魔道を全力で阻止するよう気を配っているのがルシアにも伝わっていたので掛けたくても掛けられなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます