第62話 ふたたび東へ⑥
「どういうことだ、二人を捕まえたのではなかったのか」
ルシアの叱責は言葉に魔道を乗せているかのように威圧的に精神に響くものだった。それだけで身が竦んでしまうのだ。
「もっ、申し訳ありません、ルシア様。二人とも確かに薬で眠っており厳重に縛り上げていたのですが」
「居ないではないか。ただ確かに縛っていた縄が残されている。逃げ出した証拠だな。眠っていなかったのであろう。まんまと騙されたな、迂闊な奴め。もうよい、ここが知れたとあっては今度はこちらが襲われる側になる、直ぐに立つぞ」
ルシア一行の五人はすぐさま馬車に乗り全力で逃げ出した。ロックたちを過小評価してはいないからだ。四人の手下では到底太刀打ちできない。二人を相手にするとしたらルシア一人では勝つ確率が相当低くなってしまう。自らの力も過大評価していなかった。
「ナルミナスよ、無汚名を挽回する機会を与えよう、二人を再び足止めするのだ、殺してもよい。殺せるのならばな。」
ルシアもナルミナス程度の者が二人を殺せるとは思っていなかったが、無い知恵を絞れば足止めくらいはできよう、と少しだけ策を授けて自分たちは馬車を走らせた。
「助かったよ、ミロ。」
「嘘、とっくに気が付いていて自分たちで逃げられたくせに」
二人の縄を解いたのはミロだった。結局ロスには向かわず必死でナルミナスの馬車に追いついてきたのだ。
「まあ、それはそうなんだけど。ルシア達に効率的に追いつくために騙された振りをしていた、ってところかな。」
「でしょうね。私が薬を入れたことなんて気が付かないはずがないもの。」
「それで、君はなんで戻って来たんだ?」
ロックの疑問も当たり前だった。折角ルシア達から逃げ果せることができたのに、逆に自ら追ってきたのだから。
「自分でも判らないわよ。放っておけなかった、ってところかしら。大丈夫、問題ない、って何度も言い聞かせたけれど、つい追いかけてしまったのよ。なんだか後悔しそうで、堪らなかったの。」
「ミロは元々優しい娘なんだよ。ロック、あんまり苛めちゃだめだよ。」
「馬鹿言ってないで、さっさと追うぞ、ミロ、 今度も付いてくるのか?」
「こうなったらとことんあなた達について行くわ、責任取ってよね。」
「なんの責任だよ。」
「あたなたちは私を放っておいてもよかったのに助けてしまった責任よ。」
言い合いをしながら三人は馬車を走らせルシア達を追うのだった。
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