第61話 ふたたび東へ⑤

「簡単に騙され過ぎだよ、迂闊な奴らだな。」


 それは闇ギルド終焉の地の幹部であるルシア=ミストの部下、ナルミナス=シンダだった。彼はルシア達を先に行かせ、追ってくるであろうロックたちを足止めし、上手く行けばそのまま闇に葬るという役目を負っていた。


「それにしてもミロのやつ、どこに行った?ここで待ってろと言っておいたはずだが。」


 そうなのだ、ミロはルシアに魔道を掛けられた被害者ではなく、ルシアの命を受けてロックたちを罠に嵌めるために態と魔道を掛けられていたのだった。もしロックたちがミロを助けようとしなければ別の方法を取ったのだが、まんまと罠にはまったということだ。


 ナルミナスは二人を縛り上げて馬車に乗せた。二人は全く起きない。薬が相当効いているようだ。その間、ジェイは全く姿を現さなかった。



 ミロは走っていた。ナルミナスから逃げるためだ。使命は果たした。もう従う義理はない。奴隷として売られようとしているところをルシアに助けられた、というか奴隷としてルシアがミロを買ったのだ。


 身の上話の設定を覚えさせられ、ロックとルークの人相も覚えた。自らに掛けられる魔道を理解し、その解除の仕方も教えてもらった。シュミの宿やに下働きとして雇ってもらうことと、ロックたちが来たら、その部屋に案内することは宿屋の主人に金を渡して準備した。そしてロックたちがやってきたのだ。


 そのまま見過ごしてしまうこともありえる話だった。ルシア達を追っているのだからミロに感けている時間はない。ミロは今までの人生で達観していた。助けてはくれない、そう思っていた。ところが二人はロスに戻ってまで自分を助けてくれた。二人を罠に嵌めるのが嫌だった。ただ、ルシアにも少しだけ助けてもらった恩がある。薬は飲み物に入れよう。気づいてくれるはずだ。気づかななかったとしたら、ごめんなさい。ミロは結果を見ずに逃げ出すことにしたのだ。ロスに行くつもりだった。隠れるにしても、安寧に暮らすにしてもシュミよりもロスの方が都合が良かったからだ。



 結局ナルミナスはミロを見つけられなかった。まあ、二人を捕まえたのだからルシアから怒られはしないだろう。あの女は勿体なかったが仕方がない。この仕事を終えたら褒美にもらうつもりだったのだが。


 ナルミナスの馬車はルシア達と合流予定のキノの村に着いた。ここまでくればキャラムの街まであと三日くらいだ。


 それにしても二人が全く目を覚まさないのがナルミナスにとっては不安の種だった。薬が効いているとはいえ一つ前のジノの村からここキノまで馬車で二日、全く目を覚まさないなんてことがあるのか。薬の効果まではよく判らなかったので、まあ、そんなこともあるか、凄い薬だな、と思うようにしていたのだが。


「ナルミナス様、二人が死んだりしていませんでしょうか。」


 手綱を取る御者は心配そうに聞くがナルミナスに答えはなかった。こっちが聞きたいくらいだ。死んだら死んだでよかったのだが、生かして連れてこい、というのがルシアの命だった。薬の所為で死んだとあればナルミナスの責任ではないと思うが、そうなるとミロを捕らえられなかったことが痛い。死んだら彼女の落ち度にできたはずだからだ。


 キノの村はジノよりは少し大きかった。宿も二つある。ルシア達はその一つに泊まっているはずだった。


 ナルミナスは宿の前に馬車を停めた。すぐにルシアが出て来た。


「ナルミナス、首尾は」


「はい、ルシア様。二人は後ろに縛り上げております。ただ、ミロは逃げられてしまいました。」


 ルシアは少しむっとした表情を浮かべた。完璧を求めているのだ。


「判った、では二人を中へ。」


 ナルミナスと配下の者が馬車の後ろに回り込んだ。そこにはロックとルークの姿は無かった。

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