第60話 ふたたび東へ④

 ロスから二つ目の街に着くと、そこは一つ前のシュミよりも小さな街だった。街と言うよりも村と言った方がいい、寂れた集落だった。宿はあったが1軒だけで、それも粗末なものだった。馬車で南海道を通る場合には皆この街を通過してしまうのだ。


「今日はここに泊まろうか」


 ロックはそう言うと宿の主人と交渉をし始めた。宿では食事は出ない。素泊まりで定価はなく毎度交渉だった。




一部屋なら、という条件で安くしてもらったのだが、ルークは納得していなかった。


「ミロも同じ部屋は駄目だよ、ロック」


「そうは言っても、もう値交渉してしまったから、いいだろ。三人だから大丈夫さ、な、ミロ」


「私はいいですよ。お二人なら安心ですし、逆に一人の部屋が怖いので」


 ミロとしては、また襲われる恐怖があった。一人で寝るのが怖かったのだ。


「まあ、それなら仕方ないけど。ミロ、本当にいいの?」


「むしろ一緒の部屋にしてください。守ってください、という意味も含めて。」


「判った。じゃあ、明日も速いし、もう寝よう。」


 夕飯を済ませていた三人は早々に眠りについた。


 深夜。ロックとルークは深い眠りに落ちていた。



(お前は何者だ?)


 ジェイが問う。応える者はいない。ジェイも確信があっての問いかけではない。何かの気配がある気がしただけだ。ルークもロックも起きないので本来危機が迫っている訳ではないのかも知れない。ただ、どうも二人の眠りが深い。特にロックは普段眠りが浅かった。気配を察するのに長けていたはずだ。


(何者なのだ?)


 ジェイが再び問う。やはり答えはない。


 ミロが居ない。ジェイが気が付く。部屋を出たことに気が付かなかった。そして逆に別の気配を感じたのだ。ミロの気配ではない。何かもっと別の邪悪な気配だった。


(ロック、ルーク、起きるのだ。どうも寝ている場合ではないぞ。)


 二人は身じろぎすらしない。薬でも飲まされているかのようだ。実際に飲まされているのかも知れない。するとミロは飲まされていないのか。そうか、この気配の主とミロは仲間だったのだ。薬もミロが飲ませたのだろう。


 それにしても用心深いルークまでもが容易に彼女を信じて薬を飲まされてしまうとは。ジェイは頭を抱えた。


 そしてジェイが感じた気配の主が扉を開けて入って来たのだった。

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