第59話 ふたたび東へ③

 どうしても付いて行く、という娘を説得できず、仕方なく二人は同行を許した。キスエル老師とはここで別れることになった。


「では、いつでもロスに戻ってくるが良い。儂もしばらくは居るはずじゃ。」


「お世話になりました老師。次にロスを訪れるときにはもう少し判り易いところにいらっしゃっていただければ。」


「バカを言うでない。目立つところにおったら厄介ごとを持ち込まれてしまうではないか。特にあのギャロとか言う若者は油断がならないぞ。儂の寝床に通じる通路を作ってしまいよった。まあ魔道で隠しておるで普通の奴には見破れんがな。」


「流石はギャロ、仕事が早い。」


 ロックの話の途中でキスエル老師はふっと消えてしまった。話に飽きてロスに戻られたのだろう。


「老師は相変わらずだな。よし、俺たちも行くか。」


「そうだね、ルシアを追わないと。」


「よろしくお願いします。」


 こうして三人と一匹の旅はやっと東へ向けて再開されたのだった。


 次の街までは徒歩で3日ほどだ。ギャロの用意してくれた馬車は返してしまって、新しい馬車を用意できなかったので三人は徒歩だった。


「辛くないか、こんなに歩いたこともないだろうに。シュミの街に戻ってもいいんだぞ。」


 ロックはまだ娘を連れて行くことに反対だった。単純に足手まといでしかなかったからだ。ルークも賛成している訳ではなかったが。


「大丈夫です、これでも体力には自信があります。兄にも負けませんでした。自分の身は自分で守るつもりです。お二人はあの男を見つけることだけ手伝っていただければ。」


「それは元々僕たちの目的だからいいけど、ロックの言う通り辛いんじゃないかと心配しているんだよ。」


「ありがとうございます。でも決心は変わりません、どうかお連れください。」


 娘の意思は固かった。


「そういえば名前を聞いてなかったな。」


 二人は娘の名前を知らなかった。むすめも今まで名乗ってはいなかったのだ。


「私は、私の名前はミロ、ミロ=スイーダと申します。」


「ミロか、いい名前ですね。」


「父が付けてくれた名前です、私もとても気に入っています。」


「ミロさんと呼べばいいかな。」


「ミロ、とお呼びください。」


「じゃあ僕はルーク、彼はロック、こいつはジェイで。」


(こいつ呼ばわりは酷いの。)


「えっ。」


 突然頭の中に声が響いてミロが驚いてしまった。キスエル老師の言葉はもっと優しく響くのだがジェイの言葉は少し強い。加減が上手くできていないのだ。


(我はブラウン=ジェンキン、偉大なる魔女ギザイア=メイスンの縁者であるステファニー=メイスンの使い魔であったが、この者たちの旅のお目付け役として同行しておる。そして猛禽属の王である。恭しくジェイ様と呼んでもよいぞ。)


 ジェイはそう言うと皆の前に姿を現した。キスエル老師が居るとあまり出てこないのだ。


「ねっ、ネズミが浮いてる。」


 普通の人からはそうとしか見えないだろう。ただの浮いているネズミだ。


(失礼な、お前を見つけてこの二人に伝えたのは我だというのに。)


「そうだったんですね、ありがとうございました。助かりました。」


「ジェイはしぶしぶ見に行っただけじゃないか。」


「ロック、それでも見つけたのはジェイなんだから間違ってはいないよ。」


「ルークはジェイに甘いな。」


「ロックにも甘いよ。」


「それはそうだがな。」


「お二人は本当に仲がいいんですね、私は同世代の友達がいなかったので羨ましい。」

 

 珍道中は続く。ミロは確かに若い娘とは思えないほど体力があった。二人が普通に歩けば普通についてこれる。お陰で次の街には二日で着いたのだった。

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