第57話 ふたたび東へ
「ノルンが連れて行ったとしたら、もう追えないだろうな。」
それはそうだろう。キスエル老師と同等の魔道士なのだ、痕跡を追えるはずもない。
「そうですね、仕方ありません。シェラック=フィットのことは後回しにしましょう。それで老師、本題です。」
「そうであったな。それで儂は何をすればよいのじゃったかの。」
「老師には僕たちと一緒に来ていただいて、ある女性に掛けられた魔道を解いていただきたいのです。」
「判った。確か南海道を東に向かった次の街、シュミだったの。」
そういうと一同は次の瞬間にはグレデス教会の外に出ていた。老師だけならもっと早いのだが、全員で行くには馬が必要だった。ギャロに手配してもらって三人はすぐにロックたちが居た宿に向かった。
「この女人じゃな、少し待っておれ。」
着くなりそういうとキスエル老師は時間が経った分、透けてしまっている女性の周りを回りだした。上空からも隈なく観察しているようだ。
「よし、判った。」
そういうと老師は何かの呪文を唱え始めた。すると女性の輪郭が見る見るうちにはっきりし出した。
「これでもう大丈夫じゃ。それにしてもあのルシアという闇ギルドの奴は、魔道の腕は相当なものだな。儂が解くのに苦労するとは思わなんだわ。」
「そうなんですね。気を付けないといけませんね。」
「うむ、ルーク、お前の魔道もいいが、あ奴は闇属性の魔道を使える。その分お前より対応力や応用力は優れていると言えよう。あ奴と対峙するときは、遠慮や容赦しておると簡単にやられてしまうぞ。もっと修行して闇属性を抑えられるようにならんとな。どうじゃ、儂の元で修業せんか?」
弟子をとらないキスエル老師がルークを弟子にしようという申し出は有難かった。が、ルークにはロスでのんびり修行することはできなかった。
「老師、とても有難いお言葉なのですが、ルシアを追わないといけないので僕は道中修行しながら、ということになります。あいつを自由にさせておくと、また大変なことになってしまいますから。」
「そうか、それは残念じゃな。儂はしばらくはロスを動かんで、またいつでも戻ってくるとよい。」
「あの。」
女性のことはすっかり忘れていた。
「助けていただいて、本当にありがとうございました。助けていただいた命です、私に出来ることは何で仰ってください。」
「なんでも、といってもな。俺たちはこれからまた東向かう旅に出るし。」
「そうだね、お嬢さん、気にする必要はないよ、多分僕たちの所為で巻き込まれてしまっただけだろうから。」
「そうなんですか。では私は被害者だと。それなら尚更あなたたちに係わりをもたせていただけませんか。私は実は天涯孤独な身で、でもいつまでもここに居たくないのです。」
「居たくない?それはどうして。」
「ここに居ると私が天涯孤独になってしまった事件を思い出してしまうのです。」
それから女性は自らに起こったある事件の話をし始めるのだった。
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