第55話 東へ⑨

「この四人の身柄も港湾局で預かりましょう。たっぷりと尋問してあげますよ。」


 少し凄みを効かせてギャロが言った。但し相手は意に介していない様子だった。


「好きにすればいい。神の殉教者であるところの、この者たちが話が出来れば、な。」


 途端、うめき声が聞こえた。


「しまった。」


 四人は既にこと切れていた。どうやったかは判らないが自害したか、この男が全員を殺してしまったのだ。捕まって尋問されるよりも死を選んだ、それが自らの意思に沿っていたのか反していたのかは判らないが。


「なんてことを。殺すことはないじゃないか。」


「私は殺していない。何か証拠でも有るのか?この者たちは自ら名誉ある死を選んだのだ。」


「名誉ある死?そんなものであるはずがない。お前が無理やり選ばせたのだろうに。」


「私が何かするのを見たのか?身動き一つしていない筈だが。」


 確かに男は全く動く素振りすらしていなかった。


「何かの魔道を使ったのだろう。」


「その形跡があるのか?ルーク=ロジックなら判るだろう、私が何もしていない、ということが。」


 確かにルークには男が魔道を使ったとは思えなかった。何も感じなかったのだ。単に修行が足りなくて気が付かなかった、ということもあり得るが、いずれにしてもルークには証拠が見つけられなかった。


「ロック、ごめん、この人の言う通り僕では魔道の痕跡を見つけられない。それがそのまま、この人が何もしていないことの証明になるとも思えないけど。」


(ここで何をしている。)


 直接頭の中に声が響いた。キスエル老師だ。


「老師、お捜していたのです。戻られたのですね。老師、声を出してお話ししていただけますか。」


「うむ、そうであった。すぐに声を出すのを忘れてしまうわい。儂を捜しておっただと、何か用か。儂はエピタフの祠に行っておったのじゃ。」


「エピタフの祠ですか。するとステファニーさんに会いに?」


「そうじゃ、お前たちの使い魔を見て思い出したからの。あの御仁の方が薬の精製などには長けておるでな。」


「なるほど、それで。」


「教会に居ったものを何人か捕まえて祠で薬を作らせておる。儂一人でロス全部を治して回るには手間がかかりすぎるでな。」


 多分面倒なだけだろう、とは思ったが誰も口には出さなかった。

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