第53話 東へ⑦
少し別の場所に話が移る。時も少しだけ進んでいる。ガーデニア州ディアック山の山裾にある洞窟の中。
「老師、今戻りました。」
「ソニーか、で、首尾は?」
「これに。」
「おお、確かに。流石じゃな。」
「苦労しましたよ、老師。アークにも本当のことは話さないで探していましたから。」
「で、どこにあった?」
「ロスです。もっと西まで行ったのですが、どうにも見付かりませんでしたので一旦ロスに戻った時にあの黒死病騒ぎに巻き込まれまして。」
「おお、大変じゃったらしいの。もう収まったとは聞いたが。」
「ええ、キスエル老師が収めてくださったのです。」
「キスエルじゃと。水のキスエルか。」
「そうです。ロスのグレデス教会の地下にいらっしゃったようで、黒死病を収めるために出て来てくださいました。」
「そうか、あの怠け者がの。自分の寝床が騒がしいのが気に入らなんだのじゃろう。でなければあの男が出張るはずがない。」
「そのキスエル老師の寝床にあったのです。」
「なるほどの、あ奴が隠し持っておったのか。というか、多分これの使い道も知らないで、ただ置いてあっただけかも知れんて。」
「そういうものですか。」
「この使い道は多分儂しか判らんじゃろう。もしかしたらアステアあたりも知っておるかも知れんが。」
ソニーの会話の相手も老師と呼ばれており、キスエル老師とも旧知の間柄のようだ。当然魔道士であろう。アステアとは鉄のアステアと呼ばれる数字持ちの魔道士序列第10位の高位魔道士だった。
「それで、本当にやるつもりなんじゃな。」
「当然です。その為に老師の言いつけ通りのものを見つけて来たのですから。」
「アーク=ライザーは知らない、ということじゃな。」
「当り前です。あの男は剣の腕は立ちますが生真面目すぎます。」
「お主の覇道には、いや破道と言い換えようか、お主の破道には邪魔か。」
「いいえ、役には立ってもらいますよ。ロスでロック=レパードに会いました。今年の御前試合の優勝者です。彼にはアークでは勝てないでしょう。ただ無傷では勝てない、と見ました。そこを狙わせてもらう、ということになります。」
「幼馴染の親友もただの駒か、お主もいい玉じゃな。」
「綺麗ごとでは私の目的は到底達成できませんから。」
「すべてはアストラッドのため、か。」
「いいえ、全ては私の目的のため、です。」
「どちらでもよい。儂はただ面白ければよいのじゃ。ただキスエルが出張ってくるとなると少々問題ではあるな。儂はあ奴とは相性が悪い。」
「老師にも苦手な方がいらっしゃるのですね。」
「苦手ではない、相性の問題じゃ。まともに争えば最後は儂が勝つわ。」
「では、儂もここを出てアストラッドに向かわねばなるまいな。」
「老師、よろしくお願いします。」
ソニー=アレスの話している相手は洞窟の中が暗いので判別し難いが、かなり身長が低い。子供の背丈くらいしかなく、ソニーの半分より少しだけ高い程度だった。暗さもあるが、なんだが存在自体が暗い、とでもいうかのようだった。
その者の名前はガルド、影のガルドと呼ばれ魔道士序列第6位の魔道士だった。
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