第51話 東へ⑤

 キスエル老師はなかなか見つからなかった。ジェイがいくら探しても、どこにも痕跡がないのだ。グレデス教会の地下への階段も結局見つからない。


「どうしようか。」


「他に当てはないしな。ジェイ、老師の気配はどこにもないままか。」


(無いな。あの御仁は自らの存在自体を決して探らせないことが可能なのではないか。だからこそ、この地でずっと誰にも知れず眠っておったのであろうよ。)


「そうだね。僕たちも全然気が付かなかったし、索敵には長けていたはずのソニーも気が付いていなかったからね。」


「まあ、俺たち程度に気が付かれていては数字持ちの魔道士の名が廃るってことか。」


 二人と1匹は途方に暮れていた。仕方ないので港湾局にギャロを訪ねることにした。


「あれ、お二人ともロスを出られたのではなかったですか?」


 ギャロに不思議そうに見られても仕方ない。旅に出たのはほんの数日前だったのだ。


「キャラムに向けて旅に出たのはいいが、すぐの街でちょっと事件に巻き込まれてしまったんだよ。」


 二人はギャロに事情を掻い摘んで話した。その都合でキスエル老師を捜していることも。


「なるほど、ルシア=ミストに嵌められましたね。」


 やはりギャロは聡い、少し聞いただけで全てを理解していた。


「判りました、僕の方でも探してみますが、今まで老師がロスにいらっしゃること自体を存じ上げに無かったので探せるかどうか。老師には疫病を排除するのに多大なご助力をいただきましたので、こちらもちゃんとお礼を言いたかったのですが、すぐにどこかに消えてしまわれたので。グレデス教会の地下に部屋が在るのなら、それはなんとか探し出せるかも知れませんので、少しお待ちください。」


 ギャロには地下を見つける方法に心当たりがあるようだった。


「一応ダンテ局長にも了解を得てからでないと人員を動かせないので取ってきますね。少しだけお時間をください。」


「ダンテ局長?」


「そうです、代理じゃなくなって正式に局長です。まあ他に選択肢がなかったので。」


 何か一局員であるギャロ=シプレックが港湾局全体の責任者であるかのようだったが、彼なら十分それに耐えられるはずだ。彼は後にレークリッド王朝の前のハーミット王朝最後の宰相レリック=バレンタインの再来と呼ばれるようになるのだが、それはまた別の話。


 ロックたちが少し待っていると、すぐにギャロが戻って来た。


「少し人を集めてから行きますので、先にグレデス教会に行っておいていただけますか。すぐに追いつきます。」


 二人と1匹はさっきまでいたグレデス教会に戻るのだった。

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