第50話 東へ④

「あの、何をしているんですか?」


 やっとの思いでルークが声を掛けた。二人とも状況をあまり把握できていない。


「あ、すいません、起こしてしまいましたか。」


 女性に普通に応えられてしまった。


「一体どうしたんですか?」


 話が通じると思ったら少し安心してきた。但し、女性は相変わらず少し透けている。


「実は昨日来た旅の人に何かの呪いを掛けられてしまったようなのです。」


「呪い?」


「呪いかどうかも判らないのですが、昨日から私はすこしづつ透けてきてしまって、それとここからあまり遠くへは移動できないようなのです。」


 女性の話はこうだ。自分はこの宿で給仕を生業にしているのだが、昨日この部屋に泊まった三人連れの男の一人が何か呪文のようなものを唱えるとその時から自分では最初気が付かなかったほどに少しづつ透けて来たらしい。同僚に言われて初めて気が付いたとのことだ。


 そして何故透けて来たのか判らないまま夕べ仕事を終えて自宅に戻ろうとしたら途中で進めなくなってしまって帰宅できなかったらしい。それで仕方なしにここに居続けている、というのだ。呪いをかけた男の風体を聞くとどうやらルシア=ミストのようだ。一日違いのところまで追いついていた。


「それは大変だな、どうだルーク、何かわかるか?」


「ちょっとまって。」


 ルークは少し何かを唱えると女性の周りを一周した。


「うん、そうだね、確かに何かの魔道が掛けられているのは間違いないね。」


「何かの魔道?」


「そう。でもどんなものなのかは判らない。これを解除するのは掛けた本人でないと無理かも知れない。」


 一日先行しているルシア達を追いかけて捕まえたうえで女性が動けないこの場所に戻ってこないといけない。中々難しいことだ。


「あと、もうつとつの可能性は。」


「他にもあるのか。」


「キスエル老師に頼る、って案。」


「そうか、その手か。老師ならなんとかできるかも知れない。」


「そうなると一度ロスに戻って老師にここに来ていただくことになる。」


「来ていただけるかな。」


「判らない。それとルシアとはかなり離れてしまう。」


「それだな。」


 ルシア達はルークたちが追ってくると確信しているのだ。それで厄介ごとを起こして手を煩わすことで距離を稼いで逃げ切る算段だろう。


「でも、選択肢はないね。」


「判った、戻ろう。」


 二人は女性と宿の主人に事情を説明しロスに一旦戻ってまた来るまで待っていて欲しい、と頼んだ。女性は否応もなかった。


 臨時ではあるがルークの使い魔であるジェイも二人からはあまり距離を取れないので少しだけ先行してもらってキスエル老師と連絡を取ってもらうこととして、二人はロスへと引き返すのだった。

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