第46話 捜索⑥
「サマム大司教、それはそうとルシア=ミストはどこにいるか判りますか?」
「ん、なんだと、ルシア?誰だ、そいつは。そいつがどうしたというのだ。」
もしかしたらサマム大司教は相手の名前を覚える気がないのかも知れない。覚える必要がない、と考えているのか。
「いえ、ご存じなければ大丈夫です。」
どうもサマム大司教からは何一つ情報を得ることはできさそうだった。
「そんなことより、儂を地下室とやらに連れて行けと言うておるだろうに。」
「大司教、先ほども言いましたが私たちも地下への経路は存じ上げないのです。」
「おまえ、お前は誰だ。」
ギャロを見て初めて気が付いたように大司教は尋ねた。
「大司教、何度かお目にかかったことが在るのですが、私は港湾局のギャロ=シプレックです。」
「知らん、知らんぞ、お前のような若造はしらん。」
そう言うとサマム大司教はまたぶつぶつと独り言を言い始めた。完全に精神に異常を来しているようだ。
「彼の相手をしていても埒が明かない。ルシアを探すかキスエル老師を探そう。」
一行はサマム大司教を置いてグレデス教会に入った。一階をあちこち探してみたが地下への降り口は見つからない。隠し階段でもあるのだろうか。ルシアの姿もなかった。
地下への通路は見つからなかったが、一人で取り残されていた者を見つけた。怪我をして置き去りにされていたようだ。
「君はナミヤ教徒かい?」
青年は何も答えない。
「置き去りにされたんだからもう義理はないだろうに。大司教はあの通りだしな。」
サマム大司教はまだぶつぶつと独り言を呟いている。
「何も話すことはない。というか話すほど知らないし話せば命は無い。だから何を聞いても無駄だ。」
やっと口を開いたのは、ルークが怪我を直してくれてからだった。
「ナミヤ教徒、って訳じゃないみたいだけど、ってことは終焉の地ってことかな。だったら話は早い、君の身の安全は公安局で保証するから証言してくれないかな?」
ギャロが提案する。青年は思考を急回転で巡らす。怪我をした自分を置き去りにした組織と助けてくれてさらに身の安全を保証してくれる、という目の前の人たち。
「本当に身の安全を保証してくれるのか?」
「安心してくれていい。僕が責任を持って君を保護しよう。」
「彼に任せれば大丈夫だ。若いが優秀だし何より彼の父親はギャロウのシプレック将軍だから。」
「シプレック将軍、とするとギャロウに守ってもらえるということか。」
「少なくともロスにいる間は港湾局が保護するさ。」
青年は終焉の地の末端構成員だった。彼らは黒死病に罹患させたネズミを大量に市内に放ったのだ。彼のように末端の構成員には、その目的は知らされていなかったらしい。
「ルシア代表は私たちからすると雲の上の人でしたから居場所も何も知りません。」
「ルシア代表?」
「ああ、彼は終焉の地のアゼリア州地区代表ということでした。各州ごとに居る地区代表と総代表が最高幹部だと教えられていました。」
「終焉の地は闇ギルドということだけれど、どういった組織なんだ?」
「詳しくは知りません。私は金のために組織に入った新参者ですから。ただどんなことでも金次第で請け負う、ということでした。暗殺や今回みたいな騒動も。」
「雇い主が居る、ということだね。今回の雇い主は聞いていないのかな?」
「私たちにはそんな情報は開示されません。多分知っているのはルシア代表だけでしょうね。」
青年の証言はかなり有用だった。但し、実行犯は特定できたが黒幕については推測するしかなかった。
「やはり公弟が、ということなんだろうな。」
「ロック、滅多なことを言ったら駄目よ。」
レイラが窘める。但しレイラも同感だった。
「ルークもそう思っているんじゃないのか。君一人を抹殺するためにロスを壊滅状態にした罪は重すぎる。」
「証拠がないよ。やはりルシアを捕まえて吐かせないと。但し、もうロスには居ないかもしれない。」
「そうだな。事態の収拾と復興が先か。俺たちは役に立ちそうにないが。」
「それは僕たちの仕事ですね。少なくともナミア教の教会は閉鎖になるでしょう。」
「終焉の地と共謀していた、という証言も得られたからな。但しサマム大司教の独断ということでナミヤ教そのものにはお咎めなし、というところだな。あとはギャロに任せておけば安心だ。」
「で、僕たちはこれからどうする?」
「そうだな、レイラとフローリアはラースに戻る、俺とルークは東に向けて旅に出る、と元々の予定通りと行こうか。」
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