第41話 捜索①
「老師、それでロスの街はもう大丈夫でしょ
うか?」
「おお、もう大事ないだろう。街中を回って
診て来たからな。病院などもアルコール消毒
の方法を教えておいたから、まあ大丈夫だろ
う。」
「アルコール消毒ですか?」
「そうだ。とりあえず代用品として強い酒を
使え、とな。それで色々なものを消毒して使
うように指示しておいた。この病気は黒死病
だから不潔なことが大敵なのだ。」
「黒死病ですか。」
「そうじゃ。ネズミが媒介して拡散する疫病
じゃな。だからネズミの駆除の方法も教えて
回ったぞ。どうだ、儂は働き者であろう。」
働き者は二年も眠らない、とその場の全員
が思ったが誰も口には出さなかった。
「それでじゃ。疫病は黒死病で間違いないの
じゃが、それを誰が広げたのかが問題じゃ。」
「誰かが広げた?何者かが態と黒死病を拡散
させたと仰るのですか?」
「そう言っておろうが。犯人が居る、と言っ
ておるのじゃ。そこでだ、お前たちは儂の手
伝いをするがいい。お前たちの力を使って犯
人を炙り出すことにする。」
「炙り出す、ですか。確かに老師の仰る通り
犯人が居るのであれば捕まえるのは当然です
が老師には心当たりがお有りなのですか?」
「いや、今のところ全然じゃ。お前たちが動
いて探すがよい。儂は寝床に戻って待ってお
るのでな。」
そういうとキスエルは消えてしまった。寝
床ということは教会の地下の棲家に戻ってし
まったのだろうか。
「何か凄い人だな。」
ロックが素直な感想を言う。
「どうする?老師はああ言ったが俺たちは今
追われる身なんだが。」
ナミヤ教徒や闇ギルドは今のところ周辺に
は居ないようだったが、特に闇ギルドは依頼
を受けてルークたちを狙っているので、諦め
ることは無いだろう。
キスエルの寝床がグレデス教会の地下なら
またあの場所に戻る必要も出てくる。
「でも、まあ本当に疫病を広げた犯人が居る
のなら捕まえることに意味はあるだろうね。」
「僕たちは遠慮しておくよ。」
「えっ、ソニー、手伝ってくれないの?」
「僕とアークは用事があるから、ここで別れ
よう。街が平穏を取り戻したのならアストラ
ッドからの迎えも探し出せると思うから。そ
れでいいよね、アーク。」
「ああ、まあ仕方ないな。ロックとはまだ試
合ってないが。」
「そうだ、アーク、俺と立ち会う約束だろう。」
「駄目だよ、アーク。ロックとは勝ち負けを
決める時じゃない。」
「判っている。ロック、悪いな。いずれ立ち
会う時が必ずくる。まあ、その時は本当に命
を掛けての戦いになるかも知れないがな。」
「おい、何か物騒だな。悪巧みでもしている
のか?」
「ロック、ごめんね。今君とアークを立ち合
わせる訳には行かないんだ。いずれ確実にそ
ういう機会を僕が作ると約束するから、ここ
は引いてくれないか。」
「ロック、あんまり無茶言っては駄目よ、困
ってるじゃないの。」
レイラに諭されて、ロックは仕方なく頷く。
「判ったよ、でもいつか必ずだぞ。アストラ
ッドにもいつか行くからな。」
ルークとロックはロスから東へ向かうつも
りだったので順調にいけばいずれアストラッ
ド州も通るはずだった。
「じゃあ、僕たちはこれで失礼するよ。」
ソニーとアークは街はずれに向かって去っ
て行った。
「あ、闇ギルドの狙いは彼らかも知れないの
に大丈夫かな。」
「それは多分大丈夫だと思うぞ、狙いはルー
クだから。」
「えっ、僕が狙い?」
「どういうこと、ルークが狙いなんて。あな
た何か狙われるような事した?」
「身に覚えはないけど。」
「身に覚えはあるだろう。ヴォルフ公の養子
になったんだ、それは公の遺産を受けられる
権利がある、って意味だぞ。」
「そんな気は無いけど。」
「ルークに無くても他人からはそう見える、
ってことが大事なんだ。それで面白くないお
方がいらっしゃるだろう。」
「あっ。」
「そういうことだ。多分間違いない。」
「そっか。他のロックやソニー、アークが狙
われても可笑しくない立場だから、当然その
うちの誰かだと思ったけど違うのね。」
「レイラ、君も狙われても可笑しくない人の
一人だろう。」
「私が?なんでよ。」
「ガリア公の娘なんだ、悪い奴らには格好の
獲物だろうに。」
「そうなの?私も気を付けないといけないの
ね。私が可愛いから狙われるのではなくて?」
「なくて。」
「もう。」
レイラはふくれてしまった。
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