第40話 ナミヤ教グレデス教会⑧

「老師、ここでは目立ちすぎます、どこか場

所を変えませんか。」


 ルークの提案に老師は即答した。


「よし、判った。」


 次の瞬間、一同は元の教会に戻って居た。

見覚えのある部屋だった。一同が軟禁されて

いた、あの部屋だ。


「どっ、どうしてここに。」


「お前たちの記憶にあったからな。ここの主

は儂の知り合いの弟だ、まあよかろう。」


「そうなんですね。僕たちがここに居た時の

状況は?」


「知らん。聞かせろ。」


「そうですか、では僕から。」


 ルークはロスに入ってからの出来事をかい

つまんで話した。

 

「なるほどな。儂が居眠りをしておる間に、

そんな事態になっておるとは。儂はそもそも

この教会の地下に居たのだ。」


「そうなんですか。」


「ここの主も知らんことだがな。兄は知り合

いだが弟は大して知らん。」


「兄というとナミヤ教のレフ=シャイロック

教皇のことですか。」


 思わずソニーが口を挟む。


「宗教のことはよく判らんが、以前少し魔道

の手ほどきをしてやったことがある。なかな

か筋が良かったので褒めてやると喜んでおっ

たが教皇とな。偉くなったものだ。」


「それで老師はこの教会の地下に勝手に住ん

でおられると。」


「勝手にというのは、まあ、そうとも言うか。

まあ、あいつには何も断りを入れてはいない

な。」


「それで老師、居眠りしている間とは、この

騒動はもう1週間以上も続いているようです

が。」


「儂が居眠りしていたのは、まあ、大体二年

というところかの。」


「二年も居眠りしておられたのですか。」


「二年くらい普通眠るだろう。」


「普通は二年も眠りませんよ、老師。」


「そうか、そんなものか。まあよい。ロスの

街は儂の住処だ。こんなことになっていると

知って追ったらもっと早くに対処しておった

のだがな。」


 少し悔しそうに老師が言った。


「ところで、老師、お名前をお聞きしていな

いのですが。」


「そうだったか?儂か、儂の名前はキスエル、

皆は水のキスエルと呼ぶぞ。」


「水のキスエル、数字持ちの魔道士序列第4

位の、あの水のキスエル老師ですか。」


 ソニーが驚きながら確認する。数字持ちの

魔道士とは、ほぼ皆が伝説となっている魔道

士たちで序列12位までが認知されている。

魔道士たちの中でも別格の魔道士のことだっ

た。ドーバが序列第7位、クロークも末席の

序列第12位だった。ドーバやクロークはそ

の魔道力を周囲にひけらかすことが無かった

がキスエルは何も気にしていないのか魔道力

周囲が容易に感じ取れた。それがとんでもな

く強大なものだった。


「老師、少し魔道力を抑えていただけません

でしょうか、あまり魔道に長けていないもの

に取っては意味も分からず生力を取られてし

まいます。」


「おお、そうか、起きたばかりでうっかりし

ておった。悪いの。」


「ありがとうございます。」


 キスエルが魔道力を抑えてくれたことによ

って一言も発することが出来なかったレイラ

やフローリアの顔色が戻って来た。


「助かったわ、もうなんだか指一本動かせな

いような感じだった。老師様、お力が凄すぎ

ます、本当に私のような非力なものには身動

きすらできませんわ。」


「すまん、すまん。ところでお前はガイアの

娘だな。」


「そうです。父上をご存知なのですね。」


「ガイアが若いころにちょっとな。そしてお

前はゼナとの間の娘、ということか。」


「母上もご存じなのですか。」


「ご存知、ご存知。二人は息災か。」


「はい、二人とも元気にしております。」


「それは重畳。」


 何か少し含みのある言い方をするキスエル

だったがレイラは気が付いてはいなかった。

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