第16話 秘密の森①

第3章 放浪の二人


2 秘密の森①



 近くに見えていた森は、その大きさから勘

違いさせていたが実は相当遠くにあった。結

局二人が森の入り口に着いた時には完全に夜

になってしまった。


 剣以外の荷物をほとんど失っていたので、

キャンプを張るわけにもいかず食料もなかっ

た。


「仕方ない、ここで野宿だな。」


「レイラとフローリアは大丈夫かな?」


「あわてて森に入ってこっちもやられてしま

ったら元も子もない、森に入るのは明るくな

ってからだな。」


「わかった。でも火も焚けないから寒いんじ

ゃないかな。」


 森の入り口付近の大木の根本で二人が休も

うとしたときだった。ざわざわざわ、と何か

が動いている音がした。


「なんだ?」


「なんだろう。」


 動物だろうか。すると、ふいに声が聞こえ

てきた。


(帰れ!)


「なに?」


「何か頭の中で声がする。」


(ここはお前たちが来るような所ではない、

早々に帰るのだ)


 警告だった。強い口調の警告だ。何かが二

人に森に入らないよう警告している。


「僕たちはこの近くで竜巻に巻き込まれた仲

間を探しているんです。見かけませんでした

か?」


 ルークが聞いてみた。


(知らんな。いいから、ここから立ち去るの

だ。人間などこの森には必要ない。)


「誰なんだろう?どうして僕たちが森に入っ

たらためなんだろう?」


「わからないな。こんな大きな森に人間の一

人や二人入ってもどうってことないとおもう

けど。」


「ちょっとまって、少し探ってみるから。」


 そう言うとルークは精神を統一しだした。

周囲にいる生き物を探っているのだ。


「うーん、おかしいな、近くには人間は僕た

ち以外に居ないみたいだ。」


「ってことは、人間じゃない、ってことか?」


「そうだね、ちよっとまって。」


(何をやっている。早くここから、立ち去る

のだ。)


「見つけた。そこだ!」


 ルークが指さした茂みを目掛けてロックが

踏み込んだ。


「もしかして、こいつか?」


 ロックが首の後ろを掴んで出てきたのは、

小さなネズミだった。


(はっ、離せ!お前たち、天罰が下るぞ、離

すんだ。)


 確かに頭に直接話しかけてきていたのは、

そのネズミだったようだ。


「なんなんだ、お前はただのネズミじゃない

のか?」


(ネズミではない、我が名はブラウン=ジェ

ンキン、偉大になる魔女に使える猛禽類の王

なるぞ。)


「猛禽類って結局ネズミじゃないか。名前が

ついてるただのネズミだろう。」

 

(ただのネズミがお前たちに話しかけられる

訳がなかろうに。いずれにしても人間どもの

入れる森ではない、立ち去るがよい。)


「首を掴まれた姿で、そう言われてもな。」


「ロック、あんまり虐めるもんじゃないよ、

可哀そうじゃないか。」


「そうか?なんか生意気じゃないか。」


(生意気とはなんだ、我はお前たちより遥か

に年を重ねて生きておるのだぞ。)


「ルーク、こいつ食べられるかな?」


「変な病気を持っているかもしれないから、

食べないほうがいいよ。」


(おっ、お前たちは我を食べるというのか。

そっちのお前もなんだか失礼なやつだな。)


「食べないでやるから、森に入るなって言う

訳を言え。」


(我に命令するでない。)


「だったら丸焼きだな。」


(待て待て。誰も言わないとは言っておらん

だろう、せっかちな奴だ、その手を離せば話

をしてやらんでもない。)


「やっぱり丸焼きだね。」


 面白がってルークも言い出した。


(だから、待てというのだ。ええい、仕方な

い話してやるから、話せばその手を放すのだ

ぞ。)


 ブラウン=ジェンキンはロックに首を掴ま

れたまま話し始めた。

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