第14話 放浪の始まり②

 アゼリア州の州都であるアドニスから港町

ロスまでは広大なポトアモス平原が続く。見

渡す限りの平地であり、高い山は丘程度しか

ない。気候も温暖で麦がよく育つ肥えた土地

が多い。アドニスの北、キース山脈から流れ

るパロム河も氾濫を起こすことも含めて、こ

の地域を豊かなものにしていた。


 ルークを拾ってくれた魔道師クロークの居

る時の都ラグもパロム河の沿岸に出来た街で

あり、河は農業都市シノンを通ってアドニス

を経由しロスに続いていた。


 ロスは西方貿易の中心であり、カタニアや

更に西方のロンドニアの珍しい織物、果物が

たくさん集まる港町だ。アゼリア州に属して

いることもあり、港町としては治安がいいと

言われている。現太守ヴォルフ=ロジックが

苦心して細かな地域毎に監察官事務所を設置

し裏家業の人々に徹底的に商売の真っ当なや

り方を教え込んだ結果だった。


 シャロン公国最大の港町であるレントや東

方貿易の中心であるレシフェの治安がお世辞

にもいいとは言えないことを考えるとロスの

治安の良さは奇跡のようだった。



「まだ着かないのかしら。」


 馬車に乗ることに飽きたレイラ=イクスプ

ロウドが愚痴を溢す。


「お嬢様、あと2日はかかるそうです、申し

訳ありません。」


「フローリア、あなたが謝る必要はないわ、

悪いのはロックだもの。」


「おい、それはどういう意味だよ。僕が何を

したって言うんだ。」


 勝手に着いてきて、目的地が遠い、なんて

ことを自分の所為にされたら堪ったものでは

ない。


「だって、ロックがロスまでならそんなに時

間がかからない、ってラースを出るときに言

ってたんじゃない。アドニスまででも遠かっ

たのに、馬車で5日もかかるなんて思ってな

かったわ。」


 ロックがロスに向かう時間をあまりかから

ないと言ったのは自分一人だけが馬で飛ばせ

ば、という前提だった。それを聞いたレイラ

が勝手に着いてきただけだ。


「はいはい、俺が全部悪いんです、申し訳あ

りません、お嬢様。」


「何よ、バカにしてるの?」


「いいえ、とんでもない。」


 ロックとレイラの仲の良さと仲の悪さには

ルークも辟易していた。フローリアはレイラ

の言いなりでしかない。二人は一刻も黙って

旅することができないのだ。


「ほんとに二人は仲がいいんですね。」


「ルーク、何よ。あなたまでバカにするって

いうの?」


「いえいえ、ただ二人を見ていると、単純に

そう思うだけです。ねえ、フローリア。」


「私などが言うことではありませんが、お二

方とも、とても仲がよろしいと思います。私

もルークさんの意見に賛成です。」


「もう、いいわ、勝手にそう思ってたら。」


 旅の間、終始このような会話が続くのだっ

た。


 ロスまであと半日の距離まで近づいたとき

それは突然起こった。元々乾燥している地域

ではあったが、砂漠ではない。それなのに向

かう方向に黒い何かが見えてきた。近づくに

つれて少しづつ姿が確認できるようになって

くると、それは竜巻にしか見えなかった。


「あ、あれは竜巻じゃないか?」


「ええ、確かに。この辺りは竜巻が発生する

ような場所なのですか?」


「いや、あまり聞いたことはないが。いずれ

にしてもこっちに向かってくるみたいだ。巻

き込まれたら大変なことになるぞ、急いで離

れないと。」


 しかし、竜巻はみるみるみうちに近づいて

来る。街道を外れて避けようとすると、どう

も竜巻も進路を変えて追ってきているかのよ

うだ。


「これは本格的に拙いな。ルーク、なんとか

ならないか?僕の力は役に立ちそうにない。」


 そういわれてもルークにに成す術はなかっ

た。4人を場所ごと移動できるような術が使

えればいいのだが、今のルークには無理な相

談だ。


「うっ、うわぁ~~。」


 4人と1頭と馬車は襲い掛かる竜巻を避け

られず、簡単に宙に浮いてしまうのだった。




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