第3章 放浪の二人

第13話 放浪の始まり①

 旅立つにはそれなりの準備が必要だった。

まずもってルークは師匠のドーバに許しを請

わなければならなかった。師匠と言ってもま

だほんの数日のことであったが。


「ドーバ老師、このロックと旅に出ることに

しました。お世話になったご恩は忘れません。

老師を訪ねたことでヴォルフ公と知り合いに

なれて養子にまでしていただきました。こん

な急に旅立つことになってしまってお名残り

惜しいのですが、公弟の罪を暴いてしまいま

したのでこのままアドニスに留まることも色

々と差支えが生じることがあると思い決断を

しましたので、相談もせずに決めてしまいま

したがお許しをいただきますよう、お願いし

ます。」


「よいよい、長々と話すで無い。全部判って

おる。この状況も含めてな。元から儂はその

つもりであった。その者の同行は心強いであ

ろう。ロックとやら、この男は自らを失って

おることでこれからも様々な運命が待ち構え

ておることであろう。力になってやってくれ

るか。」


「もちろんです、老師。但し僕の修行にも付

き合ってもらいますけどね。」


 ロック=レパードにとっては全て修行が基

準なのであった。


「お主が来た時に持ってきた荷物はそのまま

にしてある。持っていくがよい。いずれまた

ここに戻ることもあろう。置いていくものは

置いていくがよい。行く先々で魔道師に会っ

たら、何か不都合が生じたときのみ儂の名を

出すがよい。正しい道を歩んで居る者たちは

無下にはせんであろう。ただ、儂にも敵対し

ている魔道師はおる。相手から一方的に恨ま

れておって儂が知らんこともあるだろう。迂

闊に名前を出すと逆に騒動に巻き込まれるこ

ともあるやもしれん。心しておくことじゃ。」


「わかりました、老師。問題は基本自分たち

で解決するようにします。老師やヴォルフ公

のお名前に頼るようなことでは修行にもなり

ませんので。」


「わかっておればよい。では、早々に旅立つ

がよい。どこに向かって旅立つのかは知らん

がな。」


「とりあえずはロスを目指そうかと。そこで

舟に乗せてもらって東に向かおうかとロック

と話をしているのです。」


「ロスか。まあ港町じゃて気の荒い者も多く

居るじゃろう。お前たちならそう心配はない

が、まあ気を付けるに越したことはない。」


「そうですね、ありがとうございます。それ

と老師、ヴォルフ公のことですが。」


「分っておる。儂が居る間は任せておけばよ

い。どこぞへ行くときは、それなりの事を施

したうえで行くことにしよう。」


「老師、ありがとうございます。公弟を誰が

操っていたのか、まだ分っていませんので、

それだけが気がかりなので。」


 ルークもロックも公弟が主犯だとは思って

いなかった。ヴォルフ公本人も希望も含めて

影で公弟を操っていた黒幕がいる、と言って

いた。公弟が幽閉されただけでは安心できな

いのだ。


「狼公ともレムス老とも話をしておくから、

心置きなく行ってくるがよい。」


 こうしてルーク=ロジックとロック=レパー

ドの二人は連れ立ってアゼリア州の州都アド

ニスから港町ロスに向かい旅立った。


 二人は街道を歩いていた。この時代、道は

整備されていない。レンガが引き詰められて

いるのは街中だけであり、街と街を結ぶ街道

にはかろうじて道と判別できるよう石やレン

ガのかけらが敷き詰められただけだった。特

にセイクリッドなどシャロン公国の中心はま

だ整備されているが南方のアゼリア州ではま

だまだ未整備な街道が多かった。シャロン公

国建国時に轍の幅が全国的に統一され、その

跡が街道であることを示していた。枝道にな

ると轍の跡は薄くなって地図が整備されてい

ない地方では迷うことも多かったのだ。


 歩く二人の後ろから近づく姿があった。ロ

ックは嫌な予感がしたが、振り向いた。


「やっぱり。」


 頭を抱えてしまった。レイラがフローリア

と一緒に後を追ってきたのだ。


「修行の旅だから付いて来るな、って言った

だろ?」


「ロックに付いてきた訳じゃないわ。元々私

はロスに行く予定だったんだから、予定通り

向かっているだけよ。」


 そうだった。確かにアゼリア州の州都アド

ニスにヴォルフ公を訪ねた後ロスに向かって

海を見る、というのがガリア州の州都ラース

を(許可も相談もなく)出たときの目的だっ

た。ロックも忘れていたわけではないが、ま

さかそのまま予定を遂行するとは思ってなか

ったのだ。


「それはそうだが。」


「でしょ?だから私たちの旅の邪魔をしない

でね。どうしても一緒に、というのなら考え

なくもないわ。」


 レイラには理屈も都合も関係なかったのだ。




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