第7話 再会②
「大丈夫ですよ、任せて下さい。」
青年はロックの心配する気持ちが伝わったのか、安心するように云った。ただ、その場で心配していないのは青年を除いて誰も居なかった。特に侍従長のレムスは身元不明の青年に主君であるヴォルフ=ロジックの運命を委ねるのは通常では考えられないことだった。それほどまでにレムスは追い詰められていたのだ。
「全ての創造者であり、全ての決裁者であるところの偉大なる主アースよ、邪悪なるカースの僕である彷徨いし者の魂をここから祓いたまえ。」
何かの呪文を唱えた後にロックたちにも判るような言葉で青年が叫んだ途端、先程からヴォルフの天蓋つきのベッドの周りを漂っていた白い物体が吹き消すように消えた。成功したのだ。
「やったのね。」
レイラが青年に駆け寄った。レムスが直ちにヴォルフの様子を覗き込んでみると、眠ってはいるが、その顔は安らかだった。いままで就寝中でさえ苦悶の表情を浮かべることが多かったのに。
「敵を追い払ったんだな。」
ロックが感心したように青年の手を取って云った。剣の腕は自信があるが、魔道となると完全に専門外だ。全く役に立たない自分が情けないのだが、青年を見つけてきたのが自分だったので、少しはヴォルフ伯父の役に立てたかとほっとしていた。
「もう、大丈夫です。相手の術者には申し訳なかったのですが、相手が邪神カースを信望する暗黒教徒だと途中で気が付いたので、こちらは最高神アースの力を借りました。無事では済まないでしょう。命を落としてしまったかも知れません。」
「そんなことはどうでもいいことです、それより我が主はもうこれで大丈夫なのでしょうか。」
宮廷魔道師や典医たちが手の施し様が無かったヴォルフの容態が見る見る内に良くなっていく様を目の当たりにしてレムスの青年に対する態度は賓客にするそれに変わっていった。
それから、数日ヴォルフは殆ど眠っているだけだったが、顔色は土色だったのが赤みが射してきて病人のそれでは無くなって来た。そして、青年が術者を跳ね返してから3日後徐にヴォルフは目を覚ました。
「おお、ヴォルフ公、気が付かれましたか。」
「レムスか、儂はどうしておったのだ。何か嘘のように身体が軽くなっておる。それに腹が空いたわ、何かスープでも持ってまいれ。」
「早速お腹が空いた、ですか。」
「おお、ロックか、久しいの。そう云えば数日前にお前に遭ったような気がするが、あれは夢であったか。」
ヴォルフはどうも数日の記憶が混乱しているらしい。
「いえ、4日も前から此方に着いていました。」
「やはりそうか、挨拶を交わしたような夢を見たのかとおもっておったが。それはそうと、儂はいったい、どうしたというのだ。あれほど重かった体がもうなんともないぞ。」
「ある青年が誰かが仕掛けた魔道の術を破ってくれたのです。」
「そうか、その青年が儂を助けてくれたのか。典医や宮廷魔道師たちはものの役にたたなかったものを。その青年は今何処におるのだ。礼を云いたいのだが。」
「それが、公を救ってくれた後、ドーバの元に修行に戻ってしまったのです。公がお気付きになるまで、側に控えるように申したのですが。」
レムスは青年に縋るように頼んだのだが、青年は特に特別な事をした思いが無かったのか、修行の続きをしたい、と云って城から戻ってしまっていた。
「そうか、では儂の身体が良くなって動けるようになったら儂の方から礼を云いに赴こう。その青年はドーバの弟子なのか。ドーバはアドニスに戻ってくれていたのだな。彼の者が居れば最初から頼んだのだが。あの老人は気難しいところがあるが、儂の話はよく聞いてくれる御仁であった。」
ヴォルフは2年前ドーバに助けてもらったことがあった。向こうは気まぐれじゃ、と云って礼も受けずに修行の旅に出てしまった。
一つ借りがあると思っていたのが、今回その弟子に助けられて二つになってしまった。自ら礼に行かねばならない。心からそう思った。
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