第6話
俺がマグナさんの元にいたのは8年間。その間に、世界では多くの戦争が起こった。魔族や竜族の侵攻により、小さな国や町、村は幾つも消えていった。魔法使いの里だって例外じゃない。山ごと消されたところもある。
「あら? あんた魔法使いかい? ギルドなら隣の建物さね」
「いや、俺は泊まりたいだけだ。一泊、8,000グランで足りるか?」
「なんだ、ギルド加入希望じゃないのかい。うちは5,000グランで十分だよ」
「そうか」
ギルド加入希望じゃないと知り、宿のおばちゃんが少し落胆したような表情を見せる。
どこも、今は大抵が人手不足だ。特に、戦闘が出来る人間は重宝される。期待外れで悪かった。
おばちゃんに5,000グランを支払い、部屋の鍵を受け取る。
「ところであんた、本当に魔法使いかい?」
「ん?」
「いやね、よくよく見ると随分引き締まった強そうな身体してると思ってね。それに、魔法使いは大抵パーティを組む。なのに、あんたは仲間がいるようにも見えない」
「ああ、体を鍛えるのは癖なんだ。日課になっちまってて、今更辞める気にも慣れない。それに、俺は紛れもなく魔法使いだよ」
杖を見せつつ「ほら」と言うと、おばちゃんは「う〜ん」と唸りながらも納得してくれた。
階段を登り部屋に着くと、対して荷物の入っていないリュックをベッドに放る。
長旅の疲れを癒すため、ローブを脱ぎ、体をベッドに沈める。
山を越えるのは良かったが、やはりと言うべきか魔物が多い。それこそ、サバイバルの中で育った野性味溢れる魔物達だ。それなりに面倒ではある。
特に、ここ最近はまともに宿も取っていなかった。
川で水浴びをし、そこらの野草と野獣を食って生活していた。とても人間らしい生活とは言えなかったと思う。かといって、その時は迂闊に町に入るわけにもいかなかったのだが……。
「おい! この町に魔法使いはいるか!」
窓から騒ぎ声が聞こえる。
ギャアギャアという鳴き声付きだ。
ドタドタという足音も聞こえて来た。ガチャガチャと金属同士のぶつかる音も聞こえるから、大方、軍隊やギルドの冒険者が駆けつけているのだろう。
俺はバッとベッドから飛び起き、窓から様子を伺う。
町の入り口に設けられた広場では、魔物たちが大挙していた。
「人間ども、今回はお前たち雑魚に用はない。魔法使いはいるか!」
広場が騒然とし、数秒して、3人のローブを纏った冒険者が前に出る。
「この町にいるのは、私を含めた3人だけだ」
「……違うな」
魔物たちの先頭に立った鳥男が言う。
「隠しても、お前たちのためにはならん。あと1分だ。あと1分で連れてこい」
「ああ、俺だ」
そろそろまずいと思い、スタン、と鳥男の前に立つ。
俺の顔を見て、鳥男は嘴を鋭く開き雄叫びをあげる。
「捕らえろぉおおお!!!」
「ウォオオオオオ!!!」
「「「「「シャルドナク!!!」」」」」
魔物たちの軍勢の最後列から、炎の中級魔法が所狭しと打ち込まれる。数えて見るとその数18、なかなかいい手駒を揃えてやがる。
「退がれ!」
「「「「「うわあああああ!!!」」」」」
俺の声とともに、冒険者や軍隊が叫びをあげて一斉に逃げる。
これだけの火力だ。情けないとは思わない。
さてと……、
「ふぅ……」
俺は両手を前にかざし、それをグルンと回す。
ぐにゃりと炎の玉たちが捻れ、大きな渦を巻いて一点に集まっていく。
「お返しだ」
18もの炎の玉が集約された大火球が、魔物の軍勢に向かって落ちる。
様々な叫びをあげながら、半分ほどが一斉に焼き尽くされて消えていく。
「くっ……! やつに魔法は使うな! 近接戦で蹂躙しろ!」
「グオオオオオオオ!!!」
最前列にいたタフそうな魔物たち、槍を持ったオークにガイコツ剣士、巨大な棍棒を担いだサイクロプスが迫ってくる。
だが、残念ながら得意分野だ。
俺は構えをとり、「ふっ」と息を吐きながら正拳突きを放つ。
グン、と一瞬空間が歪み、その直後衝撃波で数10体を吹き飛ばす。
そこから回し蹴りを放ち、振り抜いた側にいた数10体が、顔をバチンと弾かれたように回転して地面に落ちていく。
「な、なんなんだ貴様はあああああ!!!」
「俺? おいおい、見りゃ分かんだろ?」
鳥男が鋭く突っ込んでくる。
雑魚どもよりは遥かに強い。明らかにリーダー格で、魔力もある。
だが、俺は変わらず構えをとる。
「魔法使いだよ」
そして正拳突きを放ーー
「とぉりゃああああ!」
ゴスッ、と鈍い音がして、鳥男の顔面が蹴り抜かれた。
俺があっけにとられてるうちに、鳥男は気を失って地面にどさりと倒れこむ。
「は?」
「勇者見参!!! ふう、危なかったね魔法使いのお兄さん! 私が来たからもう安心だよっ!」
明らかに快活そうなポニーテールの女の子が、俺に良い笑顔を向けていた。
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