第4話
「お前をぶっ飛ばしてやる!!!」
「おう! その実力差でよく言った!」
ズドン、と音がして、ローブを纏った男の背中が目の前に現れる。
杖を持っている。この人も魔法使いなのか? だが、その腕は見たことがないくらいに太い。体全体がゴツく、到底思い描くような魔法使い像とは重ならない。
「ひっさびさに帰ってきたら、こんなところで何の用だい? お兄ちゃん」
「さあな」
「さあなってこたねえだろ。せっかく来てくれたんだから、俺に教えてくれよ」
山賊の男が、完全に臨戦態勢に入っている。剣をまっすぐに構え、ローブの男の一挙一動を見逃すまいと目を細めている。
「おい、本当に魔法使いか?」
「ん? どっからどう見ても魔法使いだろう?」
「そうか、聞いた俺が馬鹿だったよ」
山賊の男が駆け出し、剣を振るう。
ローブの男は素早くそれを受け流すと、山賊の男の手首を掴み、勢いを利用して投げ飛ばす。
「やっぱ、どう考えても魔法使いって感じの体捌きじゃねぇなぁ」
「お兄ちゃんこそ」
クルリと体を反転させた山賊の男が、再びローブの男に向かって突っ込む。
「ただの山賊にしちゃ、洗練され過ぎてるでしょ」
振るわれた剣の影から、スルリと現れたナイフがローブの男の喉元まで迫る。迫るナイフに対して、僕でもわかるくらい完全に反応が遅れている。
掻き切られる……! そう直感した瞬間、ナイフがグニャリと歪曲し、それに耐えられなくなったのかパキンと綺麗な音を立てて折れた。
「おいおい、一応破魔のナイフなんだぞ」
「そりゃ、すまないことをした。だが、相手が悪かったと思って諦めてくれ」
ローブの男の言葉とともに、残っていた剣もグニャリと曲がってへし折れる。
一体……、何が……?
「パドルク。初級の力魔法だ」
「くっそ、魔導師様がこんなところで何してやがる!!!」
「何って……、そりゃ見ればわかんだろ? 里帰りだ」
ローブの男が、指をクルンと回し空を指す。
その瞬間、山賊の男は弾かれたように上空へと舞い上がって行く。
詠唱も、魔道具も無しだ。すごい……、こんなすごい魔法、どこでだって見たことが無い!
「うぉああぉあ!!!」
山賊の男が、叫びを山中に響かせながら落ちてくる。それはもうとんでもない高さに打ち上げられたものだから、とんでもないスピードで落ちてくる。
そして、まるで隕石のように地面へと激突した山賊の男は、クレーターの中で動かなくなった。
「さて、かっこよかったぞ、坊主」
ローブの男が、僕の方に歩み寄って来て頭を撫でる。すごく大きな手だ。安心する、力強い手。
そうだ、気になっていたことを質問しなきゃ。
「お、おじさんはさ!」
「ん? おじさん? 俺おじさんか!?」
ローブの男が、途端にすごくショックを受けてうずくまる。あれ? おじさんはダメだったのか……。
「お、お兄ちゃんはさ、本当に魔導師なの!?」
「おう! っても、力魔導しか使えねぇけどな!」
お兄ちゃんと聞いた途端に機嫌を取り戻し、ドンと胸を叩きながら答えてくれる。
すごい……、すごい……っ!!!
魔導師を名乗れる人間なんて、魔法使い全体の1%もいない。魔法使いの中でも最高位の、まさしく、魔を導く者の称号! そのうちの1人が、この人なんだ!
「にしても、さっきは凄かったな坊主! まさか、身1つで山賊相手にタックルとはな! 勇気あんじゃねぇか!」
かっかっかっ、とその人は笑う。
なんか、認めてくれてる……。こんなこと初めてだ。
「でも、僕は勇気があるんじゃなくて……」
「ん?」
「さっきのやつしか、使えない……から……」
恥ずかしいことだ。魔法使いの癖に、力魔法で突っ込むしか出来ないなんて……。
僕が恥ずかしさを紛らわすためにシャツの裾をぎゅっと握りしめていると、大きな手が背中を優しく叩いた。
「奇遇だな! 俺も!」
その人は、ニカッと笑う。
え? 今、「俺も」って言った? 魔導師を名乗れるほどの人が、僕と一緒?
「俺も、力魔法しか使えなかった。それをどうにか、魔導の領域まで鍛え上げたんだ」
「え? うそ、ほんとに?」
「あとな? あれしか出来なかったって言うが、坊主が行動を起こしたのは紛れも無い事実。それはやっぱり、勇気だと思うぜ」
僕の行動を、魔導師になるくらいの人が認めてくれた? なんだこれ、夢みたいだ。
「でも、僕は……才能無いから……」
「はぁ? そんなの気にすんな! 俺だってな、昔はよく落ちこぼれだってバカにされた。力魔法なんて誰だって使えるし、確かに魔法使い1人で使うような魔法じゃないかもしれない」
「僕と、一緒だ……」
「そうか。力魔法は、あまり評価されにくい風潮があるからな。でもな? それでも俺は諦めなかった。研究しまくって、努力しまくって、いつの間にか魔導師の位を得てた」
この人の言いたいことは、わかる。
ただ、自信がない。僕には、この人と同じように強くなることなんか出来ないかもしれない。
僕が顔を上げると、その人は気圧されるくらい気迫に満ちた目を向けてきていた。
きっと、微塵も疑ってないんだ。努力すれば、強くなれるって。この人自身が、力魔法1つで這い上がったんだから。
僕も、もし望みをもっていいのなら……、
「強く……なれますか?」
「なれる」
「僕も、お兄ちゃんみたいに?」
「ああ……」
頷いて、その人はドンと僕の胸を拳で叩いた。
「なれる。お前自身を信じろ」
「…………っ……!」
揺るぎのないその人の瞳に、僕はあてられてしまった。
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