第2話
「始めっ!!!」
「シャルク!!!」
開始の合図とほぼ同時に、ダースが火の魔法を発動する。初級の魔法だが、犬猫くらいのサイズなら丸焼きに出来る威力がある。
「パドルク!!!」
咄嗟に強化の魔法を発動し、火の玉を躱す。その間にも、ダースは次の魔法を発動している。
この差だ。魔法使いがどれだけ体を強化したって、高が知れている。相手が飛び道具を使ってしまえば、近付くことも出来ない。
「パドルク!!!」
埒があかないと判断したのか、ダースも強化の魔法を使う。一気に距離を詰められ、火の魔法とのコンボで追い詰められる。
「落ちこぼれが調子乗んな!」
罵声を飛ばされ、足がすくむ。動きが鈍くなった僕の首を、ダースが捉える。
「うぐっ」
首を掴まれたまま、地面に叩きつけられ情けない呻き声を上げる。抵抗しても、同じ強化の魔法を使っていればダースの方が強い。
もがく僕を、ダースが見下す。
「ま、まいっ」
「まだ早いだろうがよ。実戦だったら、参ったなんて聞いてくれんのか?」
ダースが、さらに強く首を掴む。首の骨が歪むんじゃないかと思うくらいに力が加わる。
「っ!ぅ……、ぁ……」
「お前、知ってんだぞ? 先生に言われたんだろ? 才能無いから、とっとと諦めろってよ! 早く辞めろよ!」
ダースの力が、さらに強くなる。
息を吸うことも、吐くことも出来ない。
苦しい……痛い……なんで僕ばっかり……。別に好きで弱いわけじゃない。なんでこんなことばっかり……。
「最初っから来なけりゃ良いのによ、ちまちま避けやがって、ちょっとでも勝てるかもしれねーと思ってんのか? 勝てるわけねーだろ! お前は、落ちこぼれの、グズなんだからよ!」
「やめろダース! そこまでだ!」
∞
「目が覚めたか?」
戦闘訓練が終わってすぐ呼び出された僕に、先生はそう言った。
諦めろ。向いてない。才能が無いんだから仕方ない。目が覚めたか?
全部、僕のための言葉だ。僕に魔法使いを諦めさせるための、先生から投げかけられた言葉……。
唯一使える力魔法でさえ、ダースに負けた。
「……はい」
「そうか、わかってくれてよかった。ご両親には話しておくから、今日はもう帰れ」
「……はい」
教室に戻り、荷物をまとめる。
バシッ。教科書をリュックに詰めようとした瞬間、それを叩き落とされる。
「もういらねーだろ? 俺が捨てといてやるよ!」
ダースが落ちた教科書を拾い上げ、そのままゴミ箱に放り込む。
「や、めろよ……」
「はぁ? 聞こえねーよ」
「やめろよぉおおお!!!」
ダースに掴みかかり、そのまま地面に押し倒す。
もうどうにでもなれ。どうせ来ることも無いんだから。今までの仕返しに、ここで1発殴ったってバチは当たらないはずだ。
「なんで僕ばっかり……、いつもいつもっ……」
「なんで? お前が、無駄なことしてっから、教えてやってんだろーが!」
グルンと体が反転し、今度は僕の体が地面に押し付けられる。
ガツン。ダースの拳が振り抜かれ、僕の頭が地面にぶつかり音を立てる。
「せっかく、才能無いの、教えて、やってんだから、感謝くらい、しろよっ!!!」
何度も何度も殴られる。こんな、最後なのに、1発もやり返せないのか僕は。
「何やってんだお前達! やめろダース! ツバキ、お前は保健室へ……」
「もう、良いです」
先生がやって来て、無理やりにダースを引き離す。
先生が保健室へ連れて行こうとするのを振り切り、僕は教室を飛び出す。
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