鉄腕剛毅の魔法使い
(株)ともやん
第1話
天を衝くような霊峰のちょうど雲がかかるあたりには、たいてい魔法使いの里がある。僕が生まれたのも、そんな言い伝え通りの雲の中にある里だった。
とは言っても、四六時中五里霧中なんてことはない。さすがというべきか、魔法使いの里全体には結界が張ってあって、雨だろうと嵐だろうと関係無い。
「おいツバキ! 落ちこぼれなんだからお前が荷物持てよ!」
ぶんと振り回されたリュックが、僕の体をふっとばす。仰向けに倒れる僕に追い打ちをかけるように、次々と重たいリュックが投げられる。
落ちこぼれ。魔法使いの里には学び舎があって、一人前になるまでは大人達が魔法とは何たるかを教えてくれる。一人前と呼べるには、下位上位、得手不得手に関係無く30は魔法を習得する必要があると言われている。だいたいの子は6年から7年で卒業する。ごく稀に、1年で卒業する規格外な天才だっている。
そんな中で、3年間学び舎にいる僕が使えるのは力魔法ただ1つ。火とか水とか風とか、数多ある魔法の中でも特に目立たないやつだ。なんせ、出来ることは強化くらい。戦士が仲間にいるような冒険者のパーティならまだしも、魔法使いが身体強化したって出来ることは高が知れている。それに、力魔法が使える魔法使いなんてごまんといる。僕なんか雇わなくても、もっと優秀で強力な攻撃魔法やらを使える魔法使いを雇ってしまえばいい。
とにかく、僕はそれくらい落ちこぼれの魔法使いだ。どこに行ったって使い道がない。
体についた土を払いながら、重たいリュックを拾い集める。せいぜいこんなときくらいだ、僕の力魔法が役に立つのは。自分に力魔法をありったけかけて、うつむきながら帰路についた。
∞
「おーいツバキ! ちょっと来てくれ!」
翌朝、学び舎の教室に入った途端、先生に呼び止められる。先生は僕の手を引くと、そのまま図書室まで連れて行かれてしまった。
「ツバキ、やっぱり魔法使いを諦めるつもりはないか? 今ならまだ、他の職業を選ぶ道もある。麓の町にある学び舎だって受け入れてくれる。才能が無いのは仕方ないだろう?」
先生がそんなことを言う。
僕が黙っていると、先生が呆れたように肩をすくめる。
「お前も、一度魔法使いを志したなら賢い選択をしろ。意地を張っていても、自分のためにならないぞ」
それだけ言うと、先生は図書室から出て行った。
自分のためにならないだってさ。確かに意地だよ。色んな魔法を試しても、全然使えなかった。だから、やっと使える魔法が見つかって、すごく嬉しかったんだ。そのときみたいに、また使える魔法があるかもしれないって、気がついたら3年も経ってた。別に無駄だったわけじゃ無い。これでも、力魔法は少しづつ上達してるんだ。
ノロノロと教室に戻ると、みんなが杖を持って待機していた。
「おせーぞツバキ、今日は戦闘訓練の日だぞ」
一際体の大きいやつ、ダースが急かしてくる。
正直気が重い。今日の相手はダースだ。ダースは典型的なガキ大将で、そのくせ優秀だ。戦闘訓練なら、それこそ右に出るものはいない。
外に出ると、すでに数人が戦闘訓練に入っていた。
いつ何時、魔物や山賊に襲われても良いように、魔法使いが1人ででも自分の身を守れるようにとの方針がある。それに従って、将来魔法で何をするかに関わらず、ある程度の戦闘技術を習得させられる。
「次! ダース! ツバキ!」
名前が呼ばれる。
ダースは、体がでかいのもあって威圧感がある。火や冷気といった温度を操る魔法が得意で、複数の魔法を組み合わせた複合魔法だって使える。
「おいツバキ、今日は思いっきりぶっ飛ばしてやるから覚悟しとけよ」
ダースが、僕にだけ聞こえるように呟く。
「ぼ、ぼくだって……」
「はあ? 聞こえねーよ」
「始め!!!」
先生の声が響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます