シンクロニシティ
綾野祐介
第1話 シンクロニシティ
事務所を出て電車で帰路に付いた。いつも
の情景だった。
突然駅でもない場所で電車が止まった。し
ばらくは何のアナウンスも流れない。梅雨時
期でじめっとした空気の中、なんとも言えな
いざわざわとした雰囲気が車両に充満してい
た。
「ただいま警察が現場検証を行っております
ので、今しばらくお待ちください。」
やっと流れたアナウンス。いきなり飛び込
んできた「警察」や「現場検証」というテレ
ビでしかあまり聞かない言葉。ざわざわのボ
リュウームが一段と大きくなった。
「誰か飛び込んだのかな。」
誰かが問う。
「わかんないけど、ホームでもないし、ただ
の事故なんじゃないの?」
「踏切でもないよね。」
「わざと線路に入ってきて轢かれたんなら、
やっぱ自殺かなぁ。」
誰かが答える。情報は皆無なので妄想する
しかない。
またアナウンスはしばらく沈黙する。
ざわざわのボリュームが少し落ち着いてき
た頃。
「現在死体を片付けておりますので、もう少
しお待ちください。」
「死体」。今、「死体」って言った。車掌
もパニックになっているのだろうか。それに
しても「死体」はないだろう。「ご遺体」も
なんかしっくりこないが。
「お待たせいたしました、この電車は○○駅
に向けて発車いたします。ご迷惑をおかけし
まして申し訳ありません。」
電車が動き出した。
窓から外をふと見てみると、警察関係者数
人がブルーシートに包まれた何かを囲むよう
に立っていた。
「ああ、あれか。」
感想はそれだけだった。
電車は約40分遅れて駅に着いた。
駅から徒歩で自宅に向かう。歩いて約10
分程度だ。家についてひと段落し、妻に今日
の出来事を話した。
「そんな気持ち悪いこと、言わないでよ。」
そう思って夕飯が済むまで待っていたのだ
が、それでもダメだったようだ。ホラー好き
なくせに、お化け屋敷が怖い、とか変わった
ところがある妻だった。
食事を終えてテレビを見出した。2時間ド
ラマの刑事ものをやっていた。冒頭すぐに出
てきたシーンが電車に轢かれて人が死んだ、
という内容だった。
思わずチャンネルを変えた。
シンクロニシティ 綾野祐介 @yusuke_ayano
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