7 入学式
さて、桜子と菜々子は新品の編み上げブーツをはいて、いよいよ女学校に初登校した。
「いーい? わたしとは一定の
菜々子は、学校への通学路である
この暗闇坂は、生い
でも、大正時代の暗闇坂にはまだ木々も多少は残っていて、急な坂を上り下りする
「菜々子さんは、優しいですね」
急な下り坂で転んでしまわないように
「や、優しい⁉ なんでそうなるのよ! わたし、あなたに
「だって、わたしに本気で意地悪しようと思うのなら、こうやっていっしょに登校してくれないはずだもの。本当に意地悪な人なら、わたしを置き去りにするわ。そうしたら、東京に来たばかりのわたしは道がわからず迷子になって、学校の入学式に間に合わないでしょ? 菜々子さんは優しいから、そういうひどいことはできないんだわ。ううん、そんな発想すらないのだと思う」
「そ、それは……」
たしかに、そんな発想はなかった。
でも、精いっぱい意地悪をしているつもりなのに、「優しい」だなんて言われると何だか悔しい。
「うぬぼれないでよ! あなたみたいな年下の子供を義理の姉だとは絶対に認めないんだから!」
「でも、お友達にはきっとなれると思うんです。友情に年齢なんて関係ないですから」
「関係おおありよっ!」
菜々子はそうさけぶと、ほっぺたをプクプクふくらませて早歩きで暗闇坂を下って行った。
「あっ! 急な坂でそんなにあわてて歩くと転んじゃいますよ⁉」
「わたしはそんなにまぬけじゃ……いったぁ~!」
ズデーン! と派手に転んで腰を痛めた菜々子は、女学校までの道のりを桜子に肩をかしてもらって歩くことになるのだった……。
自分よりも大きな菜々子の体を支えながら歩き続けたチビの桜子は、女学校に
家から学校まで十五分
「と……とても広くて立派な学校ですね……。はぁはぁ……」
「あ、当たり前よ。ぜぇぜぇ……。め、明治時代にカナダ人のえらい
桜子と菜々子が校門前で広々とした
「あら、まあ。新学期早々、肩を組んで登校している人たちがいるわ。よほど仲がいいのね」
「もしかしたら、姉妹かも知れないわね。でも、ちょっと仲がよすぎよね。クスクス」
などと、二人の女学生が桜子と菜々子を見ながらひそひそ話をし、通り過ぎて行った。
菜々子は、かぁ~っと顔を赤らめた。
「も、もう一人で歩けるから離れてちょうだい!」
まだ腰が痛むけれど何とか自力で歩けるようになっていた菜々子は桜子からパッと離れ、入学式が行なわれる
(素直じゃないなぁ~)
桜子はそうあきれながらも、菜々子の後をついて行った。
メイデン友愛女学校が入学式やその他の特別な
年々、入学者が増えてきているから、最近、講堂を大きくしたらしい。十年後ぐらいには、生徒数を四百人ほどに増やそうというのがこの学校の目標だった。
「ミナサン、入学オメデトウ。アナタタチハ、同ジ学校デ学ブ仲間デス。同志デス。仲良ク、助ケ合ッテイキマショウ」
サマセット先生は、おばあちゃんだった前学校長が引退して故郷のカナダに帰国したため、かわりにカナダのプリンスエドワード島というところから日本にやって来た新しい学校長だそうだ。
まだ三十七歳と若く、新入生たちをはげますその明るくて力強い声は、日本語の発音は怪しくても、新入生の少女たちの胸に熱くひびくのであった。
(わたしもいよいよ花の女学生なんやなぁ。わたしは新入生の中で一人だけ一歳年下やから、みんなと仲良くなれるか不安やけれど、がんばらな!)
桜子も、自分にそう言い聞かせて気合いを入れていた。
サマセット学校長のあいさつが終わった後、次は教頭の
「いいですか、みなさん。日本の女性の理想像は
冬木教頭は、ちょびヒゲをいじりながら、くどくどと学校の校則について語り出した。
(な……長い……。この先生の話、すごく長い……)
桜子たち新入生全員はうんざりとしながら冬木教頭の話を聞き続けたけれど、話が始まってからそろそろ四十五分がたちそうだった。もう
この冬木教頭という人は、ものすごく口やかましくて女学生たちからの
「……というわけで、まだまだ話し足りませんが、あまり長くなるとみなさんも登校初日から疲れるでしょうし、ここまでにしておきましょう」
みんな、もう十分に疲れていた。講堂内は窓が少ないせいで日があまり当たらず、肌寒い。そんなところに長くいたためか気分が悪くなった生徒もいて、
「め、めまいが……」
桜子の右隣の席に座っていた女学生が、式が終わってイスから立った直後、体をフラフラさせ、たおれそうになったのである。
「あ、危ない!」
桜子は、あわててその女学生を支えようとした。
でも、ちびっ子の桜子は、菜々子に肩をかすことぐらいは何とかできるけれど、年上の女の子の全体重を支えられるほどの力は残念ながらなかったのである。
「うひゃぁーーー⁉」
桜子は、めまいを起こした女学生に押しつぶされるようにたおれ、ゴツンと頭を打って気絶してしまった。
ちなみに、桜子を下じきにした女学生の
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